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2015.12.11
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レジオネラ症のリスクマネジメント8レジオネラ属菌の制御方法

著者
縣邦雄
アクアス株式会社つくば総合研究所
出典
日本防菌防黴学会誌防菌防黴2010Vol.38No.4

■はじめに
浴槽水や冷却水など人工環境水ではレジオネラ属菌の検出率が高くなっている。レジオネラ症感染防止のためにはこれら水系のレジオネラ属菌制御は重要である。

■レジオネラ属菌制御の目標水系により制御目標が定められている。公衆浴場、旅館の浴槽水などは自治体条例により不検出と規定されている。医療機関や家庭などの浴槽水もレジオネラ症防止指針のガイドラインにより不検出を目標としている。この他、建築物の給湯水、冷却水などについてもレジオネラ症防止指針のガイドラインを適用する。目標が守られることが望ましいが、目標を超えた場合の是正処置は重要である。

■レジオネラ属菌制御のポイント
1.水中に浮遊する菌の殺菌と同時に、バイオフィルム対策が重要である。加温、及びバイオサイドによる処理は浮遊性の菌の殺菌、壁面へのバイオフィルム付着制御に有効である。
2.バイオフィルムが付着しにくい設備構造、管理しやすい設備構造であることが望ましい。空気調和・衛生工学会発行の「浴場施設におけるレジオネラ対策指針SHASEG2002-2006」は設計施工の具体的なポイントが示されており、参考にするとよい。
3.定期的にレジオネラ属菌検査を行い、処理プログラムの改善・適正化を図る。検査頻度は処理法確立までは頻繁に行い菌数の変動を確認し、確立後はレジオネラ症防止指針のガイドラインに従う。年に数回は悪条件(全換水、負荷の高い時など)にて検査を行う。
4.制御のための年間プログラムを作成する。菌が目標を上回った場合の手順も明確にしておく。専門業者に委託する場合はプログラムを相互に確認し、項目毎の手順、分担などを明確にする。

■殺菌処理方法
○薬品による処理(バイオサイド)
1.酸化性薬剤は低濃度かつ短時間で殺菌効果が得られるが、有効成分の分解が早いのでこまめな濃度管理が必要である。塩素剤は通常使用頻度では人体に安全なことから水道水、浴槽水などで使用されるが、温泉浴槽水で水質が特殊な場合は塩素剤の効果が低下する。この時は臭素剤や二酸化塩素の使用が検討される。
2.非酸化性薬剤は主に冷却水処理に使用され、浴槽水や給水などには使用されない。塩素剤に比較して殺菌に要する接触時間が長く、金属類に対する腐食性が小さい。
○加温による処理
水温を高くして浮遊菌の殺菌、バイオフィルム付着抑制、更に高温でバイオフィルムを殺菌する。
温度によっては長時間を要し、必要な定職時間を確保して管理する必要がある。

■バイオフィルム除去方法
1.物理的方法による除去スポンジボールや水圧ジェット洗浄などの物理的方法は厚いバイオフィルムも除去できるが、洗浄後の残留物には殺菌されていないレジオネラ属菌が含まれるので引続き化学的殺菌処理を行う。
2.薬品による除去付着が軽微な場合は塩素剤や有機系バイオサイドを高濃度添加する。バイオフィルムが存在すると残留塩素が減少する為濃度を維持するよう注意する。厚い場合は過酸化水素を使用する。洗浄後は残存過酸化水素を酵素剤で分解後、剥離したバイオフィルムの破片と共に排出、その後水洗する。

■各種水系の制御方法
○浴槽水
1.浴場施設の設備構造は多様で、配管経路は複雑なため、設備構造を十分に理解し、管理する。
2.夜間・休日も含めて常時、残留塩素濃度を維持する。入浴者数や気泡浴などの影響で減少・変動するので頻繁に測定することが望ましい。
3.塩素剤の添加は薬液注入ポンプの使用で定量的に行える。また測定機器の使用で残留塩素濃度の自動調整が可能である。
4.バイオフィルム対策は確実な管理で付着させないことが重要。常時、遊離残留塩素を維持すれば付着が少なく、温泉水で塩素剤を間欠投入した場合には付着しやすいことが事例に示されている。
5.初期段階のバイオフィルムは塩素剤による除去を行う。付着量が多い場合には過酸化水素洗浄を行う。これは医薬用外劇物のため専門業者に委託することが望ましい。
6.ろ材の殺菌はフィルターリフレッシュ法にて殺菌する。温泉水など、塩素剤による遊離塩素管理が困難な場合にもろ材のバイオフィルムを効果的に除去でき、制御対策として有効である。
○冷却水
1.冷却水用のバイオサイドを継続的に添加する。
2.加えて、付着してくるバイオフィルムの定期的な殺菌洗浄を行う。有機系バイオサイドの高濃度添加や塩素系薬剤の高濃度添加を行う。冷却水の運転開始時、夏季の高負荷時、数日間以上の運転休止後の再開時に殺菌洗浄を行う。
3.対策を行ってもレジオネラ属菌が検出される場合、処理効果不十分の要因として、薬剤の添加量が不十分、バイオサイド有効成分の消費、レジオネラ属菌の繁殖箇所が存在することなどが考えられる。
4.水処理剤については、抗レジオネラ用空調水処理剤協議会が有効性と安全性について評価し、自主基準に合致する製品を登録薬剤としており、こうした情報を参考に選定、使用することが望ましい。
○給湯水給湯
タンクの湯温を60℃以上に維持し、給湯末端でも55℃以上の湯を供給する。菌が検出された場合は高温水で給湯系を殺菌する他、高濃度の遊離残留塩素や過酸化水素による配管系殺菌対策を行う。
○給水(水道水)
遊離残留塩素を維持する。水道水は水質が良好でありレジオネラ属菌検出の可能性は低い。検出されるのは末端の給水栓が多く、給水配管内部のバイオフィルムや細菌を含む鉄錆による。高濃度塩素洗浄などにより除去する。鉄錆は酸洗浄、又は配管を更新する。
○水景用
水塩素剤による対策を主とする。遊離残留塩素濃度の維持に加えて、月に一度定期清掃を行う。○蓄熱槽水有機系バイオサイドの添加と定期的検査で効果を評価する。
○加湿用水
遊離残留塩素濃度が維持されている水道水を使用する。貯水タンクはバイオフィルムが付着しないよう残留塩素の維持と定期的な清掃を行う。家庭用加湿器は毎日水道水を入れ替える。

■おわりにレジオネラ属菌制御に関して基本的事項と水系毎の処理方法を解説したが、レジオネラ属菌制御対策は、「計画された検査で評価し、改善する」というサイクルを回すことが重要である。