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2015.12.11
  • レジオネラ文献

ECMO導入にて後遺症なく救命し得た重症レジオネラ肺炎の1例

著者
加藤博史13、村田研吾1、樫山鉄矢2、岡本翔一1、三倉真一郎1、高森幹雄1
1.東京都立多摩総合医療センター呼吸器内科、2.同救急科、3.東京都立駒込病院感染症科
出典
感染症学雑誌第87巻第3号

序文
近年、重症化した呼吸不全の症例においてECMO(模型人口肺)の有用性が報告されている。今回、ECMOを使用し救命し得た重症レジオネラ肺炎1例を経験したので、ECMO使用時の抗菌薬を含む支持療法についての考察も加えて報告する。

症例
54歳男性、塗装業、主訴は発熱、呼吸困難。近医にて尿中レジオネラ抗原陽性でレジオネラ肺炎と診断され、重症呼吸不全を伴い救急搬送となった。入院時現症:両側全肺野でcoarse crackleを聴取した以外は特記事項を認めず。入院時検査所見:炎症反応上昇、高度の低酸素血症を認めた。尿中レジオネラ抗原陽性。入院後経過:気管挿管・人工呼吸器管理とした。レジオネラ肺炎に対してレボフロキサシンの点滴静注、リファンピシン経管投与、他の細菌感染の可能性を考慮しメロペネム点滴静注を併用して治療開始。第2病日、低酸素血症改善せず。気道圧解放換気に拘わらず酸素化改善せず。Murray score3.5のためV-V ECMOを導入、装着後は速やかに酸素化の改善を認めた。施行中、吸気圧を下げ換気量を制限し肺障害からの改善を図った。装着翌日回路内に白色血栓が出現、人工肺膜を交換した。また溶血が高度だった為ハプトグロビンを3日間投与し、腎保護を図った。装着期間中はAPTTを50〜80秒程度にコントロールした。徐々に炎症反応、両側肺の浸潤影は改善した。第8病日ECMO離脱、同日喀痰培地よりL.pneumophila血清型1が培養され確定診断とし、メロペネムを中止。第11病日、淡い皮疹出現のためリファンピシンによる薬疹を疑い中止。呼吸状態・浸潤影は徐々に改善したが肺障害は残存、第13病日、酸素化維持のため気管切開を行った。第15病日、肝酵素上昇にてレボフロキサシンをアジスロマイシンの点滴静注に変更し3日間投与。第18病日、人口呼吸器離脱。第24病日、酸素離脱。第36病日に退院した。

考察
早期のECMO導入は有効とされているが、酸素化不良等のECMO関連合併症や肺胞出血等の非関連合併症が報告されており、導入には慎重を期さなければならない。本症例においては導入翌日に回路内血栓が発生したため膜の交換を、更に溶血に対してハプトグロビンや輸血を行い、重篤な合併症を防ぐ事ができた。本症例では合併症を防ぎ、早期に導入したことで肺以外の臓器不全を起さなかったことが後遺症のない状態での救命につながったと考える。導入と共に重要なのは早期に適切な抗菌薬加療を行うことである。本症例ではレボフロキサシンにリファンピシンを併用したが併用に明らかな効果を認めなかったとの報告もあり、相互作用や副作用に注意しながら使用する必要がある。更に、ECMO使用時には抗菌薬等の投与量にも注意が必要である。循環血液量の増加により血漿中の濃度が変化、回路の構成要素により薬物が吸着する恐れがある。本症例では通常量の抗菌薬で治療し奏効したが、適正な投与量等については今後のさらなる検討が待たれる。今回の経験を通して、重症レジオネラ肺炎に遭遇した場合に、ECMOを導入することが有効な治療法の一つになると考えられた。