2025.11.26
- レジオネラ文献
グリース・トラップのメンテナンス作業中の感染が示唆されたレジオネラ肺炎の1例
- 著者
- 吉田 泰徳, 大石 愛, 嵯峨 玲奈, 山田 透, 鈴木 清澄, 萩野 剛史, 日台 裕子, 本村 小百合, 平井 由児
- 出典
- 感染症学雑誌,96 巻 4 号 168-172(2022)
DOI:https://doi.org/10.11150/kansenshogakuzasshi.96.168
61歳の男性が3日間の発熱と頭痛の病歴を呈して来院した。入院時の体温は40℃,脈拍数は99/分,呼吸数は25/分であった。血清CRPは上昇しており,胸部X線では左上肺野に陰影が認められた。市中肺炎の疑いで,患者はアンピシリン/スルバクタムによる治療と,鼻カニューレを介した2L/分の酸素投与を開始した。病歴の再検討により,患者の現在の職業はグリース・トラップの保守管理であることが判明した。グリース・トラップとは食品廃棄物から油脂が下水管に入る前に除去するための装置である。症状発現の4日前,患者は不適切なマスクを着用して,非常に汚れたレストランのグリース・トラップで作業していた。レジオネラ症が疑われ,尿抗原検査で陽性反応を示した。喀痰培養およびPCR検査では,急性肺炎を引き起こす最も一般的なレジオネラ属菌であるLegionella pneumophila serogroup 1が陽性であった。入院2日目に抗生物質をレボフロキサシン500 mg/日の静脈内投与に変更したところ,患者の症状は改善した。レジオネラ症は,レジオネラ属菌を含むエアロゾルの吸入によって引き起こされ,温泉,冷却塔,家庭配管などが発生源と関連付けられている。本症例では,患者はレジオネラ属菌の一般的な感染源への曝露歴はなかったが,グリース・トラップでの作業が感染源として疑われた。レジオネラ症の早期診断は良好な転帰につながるため,臨床医は厨房での活動を含む正確な病歴を聴取する必要がある。