レジオネラ尿中抗原が陽性となった肺炎患者の臨床像についての検討

目的
レジオネラ尿中抗原検査により、レジオネラ症と診断される症例が増えていることから陽性となった肺炎患者の臨床像について調査する。

方法
当科を受診し、レジオネラ尿中抗原が陽性となった肺炎患者を対象に病歴・症状・治療などについて診療録を用い後ろ向きに検討した。

結果
対象の肺炎患者は26名、うち男性20名、平均年齢は66.7歳。温泉入浴歴は5例。主な症状として消火器症状10例、意識障害12例、腎機能障害13例、肝機能障害10例、低Na血症8例を認めた。初期治療薬として投与された抗菌薬はアジスロマイシン7例、エリスロマイシン6例、シプロフロキサシン8例、レボフロキサシン2例、パズフロキサシン3例、リファンピシン2例であった。当院受診後30日以内の死亡は2例であった。

トラック長距離運転後に発熱、血尿、腹腔内出血を初期症状に発症したレジオネラ肺炎の1例

症例
68歳男性、高血圧と心房細動にて内服加療中、トラックで仕事に出て翌日夕方帰宅後の夜に39℃台の発熱、その後改善なく、関節痛、腹痛、血尿の出現により当院内科を受診し、腹腔内血腫を疑い入院とした。第2病日、左下肺野に浸潤影出現、咳、痰など下気道症状と頭痛が出現したため細菌性肺炎と考えた。多彩な臨床症状、低Na血症が見られたためレジオネラ肺炎を疑い、CTRXとAZM併用にて治療を開始、第5病日に尿中レジオネラ抗原が陽性となり診断に至った。臨床症状は治療開始後、緩徐に改善、抗菌薬治療は10日で終了した。

考察
国内外で長距離トラック運転手のレジオネラ肺炎症例が報告されているが、本症例も病歴からトラックの空調設備が感染源と推測している。また、腹腔内出血の合併は非常に稀であり診断に苦慮したので今回報告する。

冷却水のレジオネラ属菌に対するNaCIOの殺菌効果調査

目的
一般にレジオネラ属菌には塩素剤が有効とされるが、我々の調査では無処理冷却水のレジオネラ属菌検出率が53%だったのに対し、有機系殺菌剤処理では20%、塩素系殺菌剤処理では55%と無処理と同等だった。そこで、冷却水のレジオネラ属菌に塩素剤が効きにくい要因について検討した。

方法および結果
1.塩素系殺菌剤使用でレジオネラ属菌が検出された冷却水4検体に対して、遊離残留塩素濃度5mg/LとなるようにNaCIO溶液を添加し、一定時間後のレジオネラ属菌数を培養法で測定した結果、菌数が3桁減少するのに4検体全て60分以上であった。冷却水から培養法で分離したレジオネラ属菌とL.pneumophilaATCC33152株を10mMリン酸緩衝液に懸濁し、遊離残留塩素濃度1mg/LとなるようNaCIO溶液を添加し、同様に生菌数を測定した結果、全ての株で生菌が不検出(99.9%以上)となり、冷却水分離株もNaCIOが効きやすかった。
2.冷却水の水質の影響を評価するため、冷却水3検体を遠心沈殿し、沈殿を10mMリン酸緩衝液に懸濁し、遊離残留塩素濃度5mg/LとなるようにNaCIO溶液を添加、一定時間後のレジオネラ属菌数を培養法で測定した。結果、99.9%殺菌時間は30〜60分以上であった。
3.冷却水中のアメーバ類やバイオフィルムの小片の影響を評価するため、ろ過した冷却水で同様に試験した結果、99.9%殺菌時間は60分以上で、ろ過しないものと変わらなかった。一般的に、冷却水では水質の影響やレジオネラ属菌がアメーバ類やバイオフィルムに保護されていることにより塩素系殺菌剤が効きにくくなると考えられているが、今回の調査結果からそれらは主要因ではないと判断された。

考察
Schookらはアカントアメーバに感染して増殖したL.pneumophilaはBCYEa寒天培地で増殖したL.pneumophilaと比べて塩素系殺菌剤への耐性が64倍上昇し、環境中のレジオネラ属菌には塩素系殺菌剤が効きにくいと報告している。実際の冷却水のレジオネラ属菌に塩素系殺菌剤が効きにくい要因としてもアメーバ内増殖が関与している可能性があるため、更に検討を続ける。

レジオネラ属菌およびアメーバの消毒剤および除菌剤に対する感受性試験

目的
レジオネラ属菌の存在状態の違いによる殺菌剤に対する感受性の違いはまだ明確でない。そこで、レジオネラの存在状態の違いによる試験系を確立し、各種殺菌剤に対する感受性を評価した。またアメーバ(栄養体)および純培養したレジオネラ属菌についてもその感受性を評価した。

方法
L.pneumophila ATCC33152とAcanthamoebacastellanii ATCC30234を使用し、存在状態の違うレジオネラ菌、①アメーバ内で増殖し、放出されたレジオネラ属菌②アメーバ内で増殖中のレジオネラ属菌、それぞれについて消毒剤・除菌剤の効果を調べた。また、アカントアメーバに対する不活化効果を調べた。

結果
①は純培養したレジオネラ属菌と比較して効果が若干低下した。
②はさらに低下傾向を示した。またアカントアメーバの不活化にはレジオネラ属菌と比較して高い濃度が必要であった。今後、より詳細に検討する。

モノクロラミンによる循環式浴槽の消毒効果について-営業施設における検証試験‐

目的
遊離塩素消毒が困難とされるアルカリ泉質やアンモニア態窒素が多く含まれる温泉水の循環式浴槽をもつ営業中の3施設で、6週間モノクロラミンの生成装置と全塩素濃度測定器による自動制御装置を導入し、消毒効果を検証した。

方法
モノクロラミンは循環式浴槽のろ過器前に注入し、濃度は自動制御で3mg/L程度を保持した。モノクロラミン濃度の測定は現場測定とDPD/FAS滴測定法により行った。また、塩素消毒で検出される消毒副生成物の定量を行った。

結果
モノクロラミン濃度は2施設で目標値3±1mg/Lの範囲内を保持した。1施設は一時的に目標値からの逸脱があったが、濃度測定器の電極洗浄で改善された。トリクロラミン(悪臭の原因)、レジオネラ属菌は3施設とも検出されなかった。浴槽水中のレジオネラ属菌の遺伝子数は低値であるが検出された。自由生活性アメーバは検出されなかった。また、濃度を適正に保持できた2施設では人体に有害な消毒副生成物は試験前より低値に安定した。以上から、モノクロラミンがアルカリ泉質やアンモニア態窒素が多く含まれる温泉水の循環式浴槽に対して高い消毒効果のあること、カルキ臭がなく、消毒副生成物の発生が極めて少ないこと等が実証され、安全で快適な新たな消毒法として期待される結果が得られた。

レジオネラ汚染に着目した中央式給湯設備配管における滞留部位の検討

目的
中央式給湯設備では湯の加熱や循環によって水質悪化の傾向があり、さらに給湯温度が低い場合にはレジオネラ属菌等の微生物汚染の報告も多々見られる。今回、同設備の水槽内の圧力を逃がすための逃がし管に着目し、レジオネラ汚染を検証したので報告する。

方法
1970年代竣工の宿泊施設B4Fに設置された貯湯槽7基のうち、4系統(客室高層系1系統、低層系1系統、パブリック系2系統)を対象とし、各系統の上部(搭屋)、中間部(3F)、下部(B4F)の配管表面温度および配管付近の気温を自動計測した。検水はB4Fの維持管理用ドレン配管から下部・中間部・上部に相当する保有量を計量し、各部位と推定する検水を採取し、冷却遠心濃縮法一酸処理法にて処理し、係数測定等を実施した。

結果
客室高層系を除く3系統の上部、中間部、下部何れの箇所からも2〜3オーダーのLegionella pneumophila SG1が検出され、最高は客室低層系の中間部だった。水温は20〜47℃の範囲であった。客室低層系は他と比較して(下部47.5℃)高めであったにもかかわらず多量の菌が検出された。

考察
逃がし管は開放系かつ滞留してしまう構造からレジオネラ汚染の一原因と推察されてきたが、本調査研究においてレジオネラ汚染を確認することができた。貯湯槽内が高い水温で維持されていても殆ど逃がし管には影響を及ぼしていないことが推察された。今後は逃がし管のレジオネラ汚染抑制に対する設計・維持管理などの手法を検討し、構築することが急務と考える。

濾過装置におけるレジオネラ標準株を使用した培養方法の基礎的検討

目的
循環式等の温浴施設での濾材からレジオネラ菌(以下L菌)を分離する前処理方法については充分な検討がなされていない。検討には実施設由来株のみならず、L菌標準株を使用した実験が必要である。今回、濾過装置におけるL菌標準株を用いて、栄養条件を変えた培養方法について検討を行った。

方法
濾過装置は模擬温浴施設を設定し、定期的に水中のL菌測定を行い、模擬浴槽水の組成等を変更して培養条件の検討を行った。
①模擬浴槽水の組成は増菌培養時の主な栄養素源を乳酸カルシウム、粉ミルク、尿素とし、週2回の頻度で模擬浴槽水の全換とともに添加した。
②栄養源をL-Cysteine4.8mg/L、及び細胞培養培地1000倍希釈添加に切り替え、全換せずに同様の頻度で添加した。
③装置内の濾材を取出し、濾過装置、模擬浴槽及び配管内を清掃及び塩素消毒後、新たに濾材を敷き詰め、栄養条件を②と同様とした。

結果
①試験開始0日にL菌標準株によりマクファーランド濁度0.5とした菌液1mLを濾過装置に移植し、更に49、53日にマクファーランド濁度6とした菌液を1mLずつ移植したが、L菌は水中より消失し、検出されなかった。
②栄養条件の切り替えと共に、56、61、64日目に環境変動に強いと考えられる実施設の環境由来株を用いてマクファーランド濁度6とした菌液を1mLずつ添加したが、L菌は消失せず、64日目の最後の移植後も増加傾向にあった。その後、栄養条件を①に戻したところ、水中のL菌は減少した。
③装置内を新たにし、②と同じ栄養条件とした。一般細菌の増殖が止まった13〜15日目にL菌標準株を用いてマクファーランド濁度6とした菌液を1mLずつ移植した。L菌は継続して減少傾向にあったが①の方法と異なり水中より消失することはなかった。

考察
濾過装置を用いたL菌標準株の培養においても増殖にはL-Cysteineの添加が必須であることが確認された。今後、L-Cysteineを添加したL菌の好適な培養条件の検討を重ね、水系のL菌検査は元より、濾材に付着する微生物膜からのL菌の定量化を図り、循環式等の温浴施設の衛生管理に繋げたい。

遺伝子解析法による微生物同定法-レジオネラ属菌の生菌迅速検出法を例にとって-

目的
従来の培養法と比べ、より簡便かつ迅速に結果が得られる遺伝子解析法が普及しつつあるが、遺伝子解析法は生菌と死菌の区別が出来ない点が課題である。そこでPCRによる生菌選択的な検出法としてEMA-PCR法が開発された。ここでは、EMA-PCR法を応用したLCEMA-qPCR法によるレジオネラ属菌の生菌迅速検出法を紹介する。

方法および結果
LC EMA-qPCR法は液体培養による生菌の選択的増殖とEMA処理による死菌由来DNAの増幅抑制の組合せにより、迅速性と生菌選択性を両立させた手法である。113個の実検体を用いて培養法との比較解析を行った結果、感度95.5%、特異度75.4%の良好な結果が得られ、本法の有用性が実証された。本法では簡単な操作で培養結果を迅速に予測できるため、一次スクリーニング等への活用が期待される。

考察
遺伝子解析法は微生物の検出の他にも、近縁種や血清型の判別や微生物種の推定等に応用されているが、高速シーケンス技術の発展によりより包括的な微生物検査も可能になりつつある。今後、遺伝子解析法が活用される場面がさらに拡大するものと考える。

レジオネラ対策におけるATP検査の有用性に関する検討

目的
上木らは、生物がもつATP量を10数秒で測定するルミテスターを用いた浴槽水の検査においてATP値の上昇と共にレジオネラ属菌検出率も上昇する傾向を確認したが、その測定法は現場で行う検査としては操作が煩雑であり、コンタミネーションが懸念された。そこで、簡便なサンプリング方法を検討し、その有用性を確認した。また水用サンプラー試作品と従来品の拭取り用サンプラーとの比較についても報告する。

方法及び結果
1.サンプリング方法の検討拭取り用サンプラーの綿棒部分を滅菌精製水に浸し、浸水時間ごとの吸水量を測定した。吸水量は時間と共に増加し、20秒後149.98μLとなり、その後ほぼ一定の値を示した。
2.L.pSG1の濃度とATP値の関係L.pSG1を滅菌精製水に懸濁し希釈系を作成後、ルミテスターを用いてATP値を測定した。拭取り用サンプラーと水用サンプラーを使用したが、どちらもL.pSG1の濃度とATP値に相関があり、検量線は直線性を示した。
3.千葉県内の入浴施設における浴槽水中のレジオネラ属菌検査結果とATP値の比較現場で浴槽水のATP値を測定、ろ過濃縮法で浴槽水中のレジオネラ属菌検査を行った。拭取り用サンプラー使用ではATP値が0-24RLUでは2.6%、25-49RLUでは15.4%、50RLU以上では38.6%の検出率でレジオネラ属菌が検出された。一方、水用サンプラー使用では4.5%、0%、33.3%の検出率であった。このことから、上記方法でATP検査を行えば、現場における適切な指導・助言等を行うことができ、迅速で効果的なレジオネラ対策が可能になると思われる。

EMA-qPCR法による浴槽水からのレジオネラ属菌検出結果

目的
遺伝子検査法は培養法と比較して迅速性に優れているが、レジオネラ属菌の生菌のみならず死菌も検出するため、それを改善するEMA-qPCR法が考案され実用化されている。本報ではEMA処理あり・処理なしのqPCR法と、培養法による検出結果を比較し、EMA処理の効果について評価した。

方法
浴槽水111検体からqPCR法および培養法によりレジオネラ属菌を検出した。EMA-qPCR法はろ過濃縮した検体をEMA処理し、反応液を調整しqPCRを行いレジオネラ属菌の16S rRNA遺伝子を定量した。同様にEMA処理なしの試料も調整してqPCRを行い、培養法と比較した。

結果
レジオネラ属菌の陽性率は111検体中、培養法が30検体、EMA-qPCR法が49検体、qPCR法が83検体であった。培養法陰性でEMA-qPCR法陽性は23検体、培養法陰性でqPCR法陽性は54検体であり、EMA処理によって不一致が半分以下に減少した。EMA処理しても不一致となる理由は検体の性質(沈殿物の存在など)により適切に処理できないことや、培養法で検出できないViable but nonculturable状態のレジオネラ属菌が存在している可能も考えられる。また、浴槽水のレジオネラ属菌検査では培養法陽性で遺伝子検査法陰性の不一致は生じない必要があるが、培養法陽性でEMA-qPCR法陰性は4検体、qPCR法陰性は1検体であった。これはLAMP法での不一致と同レベルであるが更なる精度の向上が必要である。

考察
EMA-qPCR法は培養法陰性、遺伝子検査法陽性の不一致を半減させており、迅速検査法の適用の可能性を広げる手法であり、処理条件などの検討により更に有効な手法となることが期待される。