Legionella pneumophila serogroup9による市中肺炎の1例

65歳男性、高血圧症以外に基礎疾患なし。全身倦怠感、四肢関節痛、発熱、左下肺野に浸潤影を認め肺炎の疑いで当科外来受診。炎症反応の高値、低Na血症、呼吸不全を認め入院。喀痰グラム染色にて有意な菌を認めず、肺炎球菌尿中抗原・レジオネラ尿中抗原ともに陰性で、細菌性肺炎疑いにて治療を開始した。1日目〜CTRX1g×2回/日点滴とAZM-SR2g内服。3日目に解熱、炎症反応低下、浸潤影改善を認め、6日目よりCTRX点滴を中止、LVFX500mg/日内服に変更。9日目に退院。後日、入院時の喀痰培養よりL. pneumophila SG9が検出された。レジオネラ肺炎には一般的にβラクタム系抗菌薬が無効である。本症例ではAZM-SRが有効であった。L.p SG9による肺炎の報告は稀であるので、報告する。

レジオネラ感染による肺胞上皮細胞の遺伝子発現解析

目的
レジオネラは肺胞上皮細胞に直接感染し細胞障害をもたらすがその機序は充分に解明されていない。本研究ではレジオネラ感染初期の肺胞上皮細胞遺伝子発現の変化について解析を行う。

方法
肺胞上皮細胞培養細胞にレジオネラ病原性株及び非病原性株を感染させた各群3検体を一定時間感染後、細胞RNAを回収し、遺伝子発現の群間比較解析を行った。

結果
38、332遺伝子発現の比較の結果、感染(病原性株)群と非感染群で14、774遺伝子に有意な変動が見られた。病原性株感染群と非病原性株感染群では10、118遺伝子に有意な変動がみられた。前者ではHPSやサイトカインなどの遺伝子発現増強がみられた。

考察
レジオネラ感染に伴い、多様な遺伝子発現変化が観察された。その病態的意義についてさらに検討をすすめる。

種々の温泉水におけるモノクロラミン消毒効果と高濃度洗浄の検証

目的
前回、アルカリ泉質やアンモニウムイオンを含む温泉水の循環式浴槽でのモノクロラミンの高い消毒効果と消毒副生成物が極めて少ないことを報告した。今回はより広範囲な泉質の温泉に対するモノクロラミン消毒の効果について、さらに循環式浴槽のろ過器・配管の洗浄方法として高濃度モノクロラミン洗浄が可能かどうか検証した。

方法および結果
少量の源泉水を用いたモノクロラミン、次亜塩素酸ナトリウムの濃度安定性試験の結果、次の①〜③に大別された。
①モノクロラミン安定、遊離塩素急減-モノクロラミンの利用が容易である
②モノクロラミン徐々に減少、遊離塩素急減-モノクロラミン濃度が維持できれば効果は期待できる
③モノクロラミン急減、遊離塩素急減-適用対象外上記を基に、営業施設の循環式浴槽にて実証実験(4週間以上モノクロラミン濃度3mg/L)を行った結果、①②及び中性域の井水沸かし湯使用ではレジオネラ、アメーバは検出されず、トリクロラミンや塩化シアンも検出されなかったことから本消毒法が有効と考えられた。また、循環式浴槽の配管洗浄方法として高濃度モノクロラミン(20mg/L)による循環殺菌が有効であること、更に通常の浴槽水のモノクロラミン(3mg/L)による配管内のバイオフィルム除去効果は遊離塩素消毒(0.5または1mg/L)時よりも高いことが示された。

公衆浴場調節箱の自動塩素注入装置によるレジオネラ属菌対策の成果(第1報)

諸言
文京区の実態調査で公衆浴場の調節箱はレジオネラ属菌が増えるリスクをもっていることがわかった。箱内の湯の衛生管理は浴槽水と同様に一定以上の遊離残留塩素濃度の維持が重要と考え、固形塩素剤入りの吊り下げ型容器の設置を指導したが濃度が不安定であった。そこで安定的な濃度確保に有効な自動塩素注入装置設置を推進、導入の成果を報告する。

方法
①自動塩素注入装置は調節箱に近接して設置。容器内に貯められた次亜塩素酸ナトリウムが自動的に点滴状に調節箱に落ちる仕組みである。維持管理の目安は0.4mg/L以上とした。
②24時間測定できる自動塩素濃度測定器を調節箱に設置し、営業開始から終了までの7〜9時間を測定した。測定項目は遊離残留塩素濃度と水温。

結果
公衆浴場11施設での測定結果は、残留塩素濃度は全ての施設で0.1mg/L以上であった。レジオネラ症防止指針に示されている0.2~0.4mg/L以上と常に同等濃度であったのは8施設。その内、0.4mg/L以上を常に記録したのは4施設であった。この検査結果から調節箱に導入した自動塩素注入装置により遊離残留塩素濃度の維持が図られていることがわかった。

循環浴槽水中のレジオネラ属菌に対する塩素と熱の有効性の検討

目的
昨年はレジオネラ症の年間届出件数が調査開始以来最多となった。循環式浴槽においてもこれまで以上のレジオネラ属菌対策が求められている。浴槽水の殺菌浄化法として塩素系薬剤、二酸化塩素剤、銀イオン、加熱殺菌、化学薬品系殺菌剤など種々あるが、本研究では塩素を分割して注入する方法を主体に熱との併用を検討した。

方法
電解次亜水生成装置と熱洗浄機能を備えた循環風呂装置を用いて入浴試験を実施した。塩素剤は一日に使う量を一定とし、一日2〜4回に分割する3条件で比較した。浴槽水は定期的に採取し、菌の分離、同定を行った。

結果
塩素剤2回/日注入では入浴前後でレジオネラ属菌は不検出であったが、3回、4回注入では10~30CFU/100ml検出された。一般細菌はすべての条件下で低値であった。分離された細菌はブドウ球菌や土壌・水系に生育する環境菌が多く認められた。さらに、1日に使用する塩素投入量を1600mgとし、2回/日の最適な塩素使用条件で電解次亜水生成装置を備えた循環風呂装置を用いて、一般家庭5件で入浴試験を長期的に実施した結果、レジオネラ属菌は不検出であった。

家庭内のレジオネラ汚染に関する基礎的調査

目的
レジオネラ症の多くは感染原因が不明であり、浴槽水や冷却塔水を対象とした汚染調査はされているが、家庭内についてはほとんど調査されていない。そこで家庭内のレジオネラ属菌の分布に関する基礎的な調査を行った。

方法
一戸建てA・B邸、集合住宅C・D邸の4軒で試料を採取した。水試料は水道水、浴槽水、洗濯水など34か所。スワブは蛇口、シャワーヘッドなど34か所。別邸5邸から水槽水11か所。その他、掃除機など合計84か所について調査した。分離培養を行い、LAMP法による遺伝子検査を行った。陰性検体はアメーバにより増菌させた後、再びLAMP法で検査を行った。一部試料については採取時に温度、pH、従属栄養細菌などを調査し関連性を検討した。A邸については3ケ月後にも調査を行った。

結果
風呂残り湯、洗濯機内の水、3カ月以上不使用の水道蛇口水など4検体、アメーバ増菌後2検体、計6検体からL.anisaなどが分離されるなど、84検体中、11検体が陽性であった。また浴槽水から検出されたL.anisaが水を再利用している洗濯機へのホースや水槽から検出され、水と共に汚染が拡大する可能性が考えられた。水槽水は11検体中2検体からL.anisaなどが検出され、7検体が陽性という高率の検出結果となった。A邸の3ケ月後の調査ではレジオネラ属菌は分離されず、菌の分離に変動があることがうかがえた。従属栄養細菌は103)CFU/ml以上でLAMP法陽性率が高まり、レジオネラ属菌汚染との関連が示唆された。以上の結果から、家庭内にレジオネラ属菌が生息しやすい環境があることが確認された。今後さらに家庭内のレジオネラ属菌の感染リスクを調査していく必要がある。

温泉水に含まれる成分がモノクロラミンに与える影響の確認

目的
モノクロラミンは高pHの温泉や井戸水の消毒に有効であることがこれまでに示されたが、全ての温泉に適用可能であるかは定かではない。そこで塩素消毒に影響するとされる成分、
①アンモニア態窒素②フミン酸③鉄イオン④硫黄⑤ヨウ化物イオン⑥臭化物イオンそれぞれがモノクロラミンに与える影響について検討した。

方法
①〜⑥の温泉成分を溶解させた試験液にモノクロラミン、比較対照として遊離塩素を添加し、一定時間後の成分濃度を測定、安定性について検証した。

結果
①遊離塩素は添加直後に不安定傾向を示し、モノクロラミンは安定に残存した。
②遊離塩素は不安定、モノクロラミンは安定な傾向を示した。
③モノクロラミンの安定性に影響を及ぼすが添加直後の消失は遊離塩素よりは少ない。
④遊離塩素、モノクロラミン両方の安定性に強い影響。塩素剤の濃度管理は難しい。
⑤両方の安定性に影響を与える。見かけ上、遊離塩素がモノクロラミンより安定傾向が認められたがヨウ化物イオンはDPD法(遊離塩素測定)に影響を及ぼすことがわかった。
⑥共に穏やかに減少。見かけ上は遊離塩素が安定傾向を示したが、DPD法では遊離塩素との反応生成物が遊離塩素として誤検出される可能性がある。以上の結果、モノクロラミンに対して影響を及ぼす成分はあるが、アンモニア態窒素などモノクロラミンの効果が期待できる結果も得られた。今後は測定法を含めた更なる検討が必要である。

富山県内の浴用施設におけるシャワー水のレジオネラ属菌分離状況

目的
これまで浴用水のレジオネラ属菌調査については数多く報告されているが、シャワー水についてはあまり行われていない。そこで富山県内の浴用施設のシャワー水についてレジオネラ属菌の分離状況を調査した。

方法
県内の浴用施設からシャワー水51検体を採水しレジオネラ属菌を分離、血清型別を行った。また、当所保存株も含めたシャワー水由来Legionella pneumophila(Lp)についてSequence- Based Typing(SBT)を行った。

結果
①検出率は29.4%(15/51)。菌数(CFU/100ml)は10〜99が10(19.6%)、100〜999が5(9.8%)
②水道水使用の検体の陽性率は15.8%(3/19)、井戸水は33.3%(9/27)であった。
③採水日の遊離残留塩素濃度(mg/l)別の検出率は0.1未満55.0%(11/20)、0.1以上は8.0% (2/25)であった。
④血清型はLpが11検体から61株分離され、Lp血清群1は4検体から14株であった。
14株のSBTの結果、10種類のSTに分類され、内、ST1、59、68は国内患者から、ST505は県内患者からも分離されたことがあり、シャワー水が感染源となる可能性が示された。エアロゾルが多く発生するシャワーの管理は重要であり、シャワー水のリスクについても広報する必要がある。

ウィンドウウォッシャー液のレジオネラ属菌による汚染実態調査

目的
レジオネラ症患者の多くは感染源不明であり、感染源の可能性を探るために様々な環境からレジオネラ属菌の分離が試みられている。近年では自動車に関連する環境からの分離報告が注目されている。そこで自動車のウィンドウウォッシャー液の汚染実態を調査し、またL.pneumophia SG1とSG5について市販ウォッシャー液中での生残性を検討した。

方法
使用されているウォッシャー液のタンクから採取した193検体についてレジオネラ属菌を分離し型別を行った。型別できなかった株については16SrRNA遺伝子のシークエンスによる同定を行った。また、L.pneumophia SG1、SG5およびL.rubrilucensを市販ウォッシャー液に接種し、菌数の経時変化を測定した。

結果
検出率は9.3%(18/193)、菌数は20〜12、080cfu/100mlで、6検体で1、000cfu/100ml以上が分離された。陽性の検体は確認できたものでタンクに水のみが補充されていた。型別はL.moravica(12)、L.pneumophilaSG5(4)、L.quateirensis(2)、L.dumoffii(1)、L.rub- rilucens(1)で、L.pneumophilaSG5のSBTはST1620、ST1532で、これまでのデータベースには認められない型であった。一方、40倍に希釈したウォッシャー液に接種したL.pneumophia SG1とSG5、L.rubrilucensの菌数は同様の経時変化を示し、24時間で殆ど分離されなくなった。これに対しPBSでの実験では24時間でおよそ6割の菌数が認められた。

考察
L.pneumophilaSG5とL.rubrilucensはヒトからの分離報告もあり、ウォッシャー液がレジオネラ症の感染源になりうることが示された。又、同液中での動態は患者から多く分離されるL.pneumophia SG1と同様であったことから、ウォッシャー液でL.pneumophia SG1が生息できること、液の適切な濃度での使用がリスクを軽減することが示された。

アスファルト道路の水たまり由来L.pneumophila血清群1群の遺伝子解析

目的
富山県内のアスファルト道路の水溜りから分離されたLp1について、当所保存のレジオネラ症患者、浴用水由来株と遺伝子型を比較し、患者の感染源と水溜りの関連を調査した。

方法
県内28ヶ所のアスファルト道路から水溜り134検体を採水し、フィルターろ過濃縮法でレジオネラ属菌を分離し、Lp1についてはSBTを行った。

結果
134検体中、54検体からレジオネラ属菌が検出された。血清型別はLp1が82株と最も多く、それらは、SBTにより44の遺伝子型に分類された。そこで、当所保存のLp1株と遺伝子型を比較した結果、患者由来9株が水溜り由来株のみと同じ遺伝子型であった。これらの株に感染した患者は感染源不明の散発事例が多く、感染源として水溜りが関連している可能性が示唆された。