レジオネラ感染症-臨床医に知っていただきたい注意点-

レジオネラ感染症診療に際しての注意点について

1.尿中抗原検査の有用性と限界への注意
レジオネラ肺炎の診断についてはレジオネラ尿中抗原検出法が臨床現場に普及したことで診断例数が飛躍的に増加している。しかし、本検査法で最も簡便で迅速性が高いイムノクロマトグラフィー法によるキットは主にLegionella pneumophila血清群Ⅰを検出対象としていることから、他の血清群やL.p種以外のレジオネラ属菌による肺炎が診断から漏れることになる。自験例においても、本肺炎の発症初期や重症度が高くない症例では陽性の閾値に達しない実例もあった。レジオネラ肺炎の診断においては、本検査陰性のみで除外することのないよう、対象菌種や検査閾値の問題に注意が必要であり、喀痰培養など複数の検査の並行が必要である。

2.生物学的製剤使用例における発症リスクの上昇
本菌の感染防御の主体は細胞性免疫である。従って細胞性免疫が低下するような症例ではレジオネラ感染症の発症リスクが上昇すると考えられる。自験例においても他科で生物学的製剤を投与された後に重症肺炎を発症した例があった。2011年、FDAは生物学的製剤使用例で、レジオネラ属菌とリステリア菌による感染症が増加する可能性があるという警告を出した。

3.免疫抑制症例における肺膿瘍
わが国で2例目・3例目となるレジオネラ属菌による肺膿瘍の症例を経験した。プレドニソロン長期使用例と悪性リンパ腫の症例で、前者は生前に診断がつき救命され、後者は剖検により診断がついた。欧米では免疫抑制症例で同様の症例が多数報告されており、わが国では見落とされている可能性について注意が必要である。

レジオネラ症の臨床的検討と早期診断についての考察

背景
レジオネラ症は意識障害や消化器症状など多彩な症状を呈し診断が難渋する。Winthrop大学では、レジオネラ症を臨床所見と簡便な検査に基づき鑑別するpoint systemを提唱しているが、精度に関する報告はない。そこで、当院での症例の臨床像と、point systemが早期診断に有効であるか検討を行った。

方法
当院でレジオネラ症と診断された5症例を対象にカルテ記録から後方的に検討した。

結果
Point systemの中央値は18点。4例が15点以上(Legionella very likely)、15点未満だった1例も発症3日後に19点を示した。尿中抗原は4例で陽性、内1例は発症当日陰性であったが発症3日後陽性となった。喀痰LAMP法検査は全例陽性、内1例は尿中抗原で陰性であった。全例ニューキノロン系抗菌薬で治療され、A-DROPで3例が重症と判定され、内1例が死亡した。

考察
Winthrop大学のpoint systemや喀痰LAMP法検査は早期診断に有用と思われる。尿中抗原は偽陰性例があり、レジオネラ症が否定できなければ喀痰LAMP法などの追加検査やニューキノロン系抗菌薬でのempiric therapyを考慮する必要がある。

レジオネラ治療薬評価委員会報告-日中レジオネラワークショップの報告-

レジオネラ治療薬評価委員会では、2010年より日中レジオネラワークショップを開催し、情報を交換している。今年度は「4th Workshop for Legionella and other atypical respiratory pathogens」が貴陽で開催された。中国からの報告について要約を示す。「Research Advances on Legionnaires Diseases in China」-Dr.Bijie Hu第2回西安
○市中肺炎におけるレジオネラ抗体価検査陽性率は高齢者約6%、若年者は約3%である。一方、健常人231例、肺炎患者168例に同検査実施の結果、31.6%、35.8%が陽性だった。
○上海8病院の水道水をDNA microarrayにて検査した結果、レジオネラ属が43% (うち、L.pneumophila17.1%)検出された。
○中国でもレジオネラ肺炎は一般的かつ重要な感染症であり、肺炎患者にはレジオネラ検査を積極的に実施すべきである。ワクチンによる予防も重要になってくると考えられる。「中国成人CAP肺炎支原体耐性情況中心調査」-Dr.Cao BIN第4回貴陽
○成人CAP(520例)における大規模研究で、14.4%(75/520)がマイコプラズマ肺炎で、EM耐性率80%、AZM72%であった。Macrolide系(MC)耐性メカニズムは23S rRNAのA2063Gの変異が関与していた。MC耐性は成人72%、小児は92%と高い。
○MC耐性率が高い理由として、①MCが安価②過剰投与③習慣的投与が考えられる。
○MC耐性に関するサーベイランスの実施、抗菌薬使用量に関するデータベースの構築、治療ガイドラインの作成などが必要と考えられる。近隣国中国での感染症発現は、日本にも影響を及ぼす。中国の事情や慣例を知ることは日本での感染対策を講ずる上で有意義である。今後も委員会報告等でフィードバックしていきたい。

喀痰グラム染色でレジオネラ肺炎を疑い診断に至った1例

症例は79歳女性。主訴は意識障害。自宅の風呂場にて水没していた。救急搬送後、頭部CT等の検査を行ったが明らかな意識障害の原因は指摘できず。迅速診断キットの結果から、インフルエンザ感染で全身脱力をきたし入浴中に溺水、低酸素脳症に至ったと判断した。来院時より人工呼吸管理下で管理。入院後第8病日にVAPを疑う所見出現。喀痰グラム染色にてレジオネラを疑い抗菌薬治療開始。培養検査の結果、レジオネラ肺炎の診断に至った。

当院において2013年に診断したレジオネラ肺炎10例の臨床像の検討

目的
2013年は全国的にレジオネラ症の報告数が多かった。特に宮城県は近年と比べ増加し、当院においても過去10年間40例の内、10例が2013年の症例である。その臨床像を検討した。

方法
2013年に当院で診断したレジオネラ肺炎10例について診療録を用いて後方視的に解析した。

結果症例
–全例男性、平均年齢73.7歳。時期–4月1例、6月2例、7月3例、8月2例、11月2例。集団発生事例は認めず。診断–尿中抗原陽性8例、尿中抗原陰性/喀痰LAMP法陽性2例。菌株–培養陽性7例の内、SG1が6例、SG6が1例。短期間での症例発生のため、同一感染源の可能性を考慮しDNA解析を行ったが泳動パターンの類似性は認めなかった。

考察
2013年の診断例の増加は、LAMP法の保険承認など迅速検査法の普及に伴うものではなく、また同一菌株の流行も確認されなかった。その他の背景に関してさらに検討していく。

空調設備におけるレジオネラ対策

1.空調設備のレジオネラ対策の重要性
レジオネラ症は夏から秋期に報告数が多くなる傾向がみられる。冬期に比べ冷却塔の稼働台数が増加し、冷却水のレジオネラ属菌検出率も高くなることから夏期増加の要因として空調設備の影響も考えられる。海外では冷却塔由来の集団感染事例も多く、その事例に学び、冷却水のレジオネラ対策を一層重視する必要がある。

2.空調設備でのレジオネラ症の感染経路
冷却水中で増殖したレジオネラ属菌は冷却塔の飛散水と共に外気取入口から空気調和機に取り込まれ、ダクトを通じて建物内に供給され、室内にいる人が感染する。冷却塔はビル屋上に多く設置され、冷却水にレジオネラ属菌が存在する場合、ビル付近の道路に菌が浮遊、道を歩く人が感染する。蓄熱槽水では水の入替え、清掃の際には注意が必要である。

3.各種水系のレジオネラ属菌検出実態
①レジオネラ属菌の検査方法特に冷却水では細菌やカビ類が多く存在する。検出不能判定が出た場合は前処理を強化し、CAT-a培地に変更、再検査する。汚染や管理状態把握のため生菌数を正確に検査が必要。
②各種水系のレジオネラ属菌検出実態全国のビルや医療、温浴施設などから採取した試料で、レジオネラ属菌が10CFU/100ml以上検出された割合は冷却水25.9%、浴槽水14.1%、給湯水5.2%、蓄熱槽水31.9%、水景用水10.6%と蓄熱槽水、冷却水の検出率が高かった。また、冷却水の年別検出率では2001年〜2005年にかけて30%程度を推移した後、低下傾向が見られ2010年以降は24%程度となっている。

4.空調設備のレジオネラ対策指針空調設備におけるレジオネラ症感染防止のために行政施策として指針が制定され、清掃・点検消毒の作業がし易いなど、設備構造面、維持管理面での技術的な指導がなされている。

5.冷却水のレジオネラ属菌抑制対策
①冷却水のレジオネラ属菌数目標レジオネラ症防止指針(第3版)ガイドラインを適用する。菌数が目標を超えた場合の是正処置は重要である。レジオネラ属菌は検査をしないと存在が分からないので予防的管理が必要である。
②レジオネラ属菌抑制対策プログラムの運用年間プログラムの運用が有用である。作業項目や実施時期等を明確にし、緊急対応についても具体的な手順等を明確にしておく。
③冷却水の処理方法
空調用冷却水の水処理はレジオネラ属菌抑制対策、スケール付着防止、配管・熱交換器腐食防止、補給水節水等を目的に、具体的には冷却水の濃縮管理と処理剤の添加、除菌洗浄である。
○冷却水の濃縮管理
循環水の蒸発によって次第に濃縮し、補給水中のカルシウムやシリカなどが過度に濃縮するとスケールや腐食を引起こすため冷却水自動ブロー装置が利用され、濃縮過剰による障害の防止、ブロー過多防止による節水運転が行われる。
○冷却水処理剤の添加
一液処理剤はスケール防止、腐食防止とバイオサイドの機能をもつ。薬液注入装置1台、薬剤1種類で処理できる。二液処理剤は防食・防スケール剤とバイオサイドの2剤を別々に添加する。
○除菌洗浄
バイオフィルム付着が軽微な場合は塩素剤や有機系殺菌剤を高濃度添加する。付着量が多い場合は過酸化水素を用いて1〜3%濃度で数時間循環する。
④処理効果不十分の要因実冷却水での有機系殺菌剤は無処理に比べ明らかにレジオネラ属菌検出率を低下させ、効果が認められる。効果不十分の要因としては(A)添加量不十分(B)バイオサイドの有効成分の消費(C)レジオネラ属菌の増殖箇所の存在などが考えられる。
一方、塩素系殺菌剤は無処理と同等以上の検出率である。冷却水中ではレジオネラ属菌はアメーバ内で増殖しており塩素剤に対する抵抗性を有する事などが考えられる。殺菌剤の効果には様々な影響があることから、実冷却水のレジオネラ属菌検査が重要である。
⑤抗レジオネラ用空調水処理剤協議会抗レジオネラ用処理剤の有効性と安全を評価し、自主基準に合致する製品を登録薬剤として公表、配合される殺菌剤の化学物質名も公表。これらの情報を参考に水処理剤を選定、使用する事が望ましい。

6.おわりにレジオネラ属菌抑制対策は適切に計画されたレジオネラ属菌検査で評価し、改善する事により菌が増殖しない処理対策を確立する事が重要である。

レジオネラ文献

各種水利用設備のレジオネラ属菌検出実態

2001年1月から2012年12月までの期間中、各種水利用施設から培養法を用いてレジオネラ属菌を検出し実態をまとめた。レジオネラ属菌の検出率は冷却水で25.9%、浴槽水で14.1%、プール水で4.3%、給湯系で5.2%、蓄熱槽水で31.9%、修景水で10.6%であった。
冷却塔水における各種殺菌剤別のレジオネラ属菌の検出率は、無処理で53.1%、グルタルアルデヒド処理で9.7%、イソチアゾリン処理で19.2%、カチオン処理系で21.9%、塩素系処理で55.0%であった。塩素系処理は冷却水系のレジオネラ属菌の抑制効果が認められなかった。
塩素系処理では無処理と比較して1000CFU/100mL以上のレジオネラ属菌が検出される検体の割合が2.9%から13%に上昇した。

レジオネラ菌の小胞体への侵入にはRab6が機能する

レジオネラ菌の細胞内感染においてエフェクターと呼ばれる重要な役割を果たすタンパク質LidAは多くのRabタンパク質と統合することが分かっている。その内、Rab1が感染の初期段階で重要な役割を担うことが明らかになっているが、その他については殆ど明らかになっていない。そこで、LidAを通して感染に関与するRabタンパク質の網羅的解析を行った。現在までに、Rab6が細胞内に侵入したレジオネラ菌を覆う膜構造(LCV)に供給されること、Rab6の発現抑制により小胞体にLCVが到着する時間に遅延が生じ、細胞内増殖を抑制することを見いだした。さらにレジオネラ感染特異的にRab6とSyntaxin18複合体(小胞体に局在するt-SNARE)が結合することを明らかにした。レジオネラ菌がRab6を利用することでLCVを小胞体へと運び、小胞体上のt-SNAREと結合し、LCVと小胞体との膜融合を促進していると考えられる。

Rab4及びRab10のレジオネラ感染における機能解析

レジオネラエフェクターの一つLidAはRabタンパク質と結合することが知られているが質量分析を用いてLidAと結合する候補としてRab4、Rab10を含むいくつかのRabタンパク質を同定した。Rab4、及びRab10とLidAが細胞内において特異的に結合していることを見いだした。又、Rab4及びRab10ともに感染後4時間においてLCV周辺に集積した。この4時間後とはレジオネラ菌が小胞体に侵入を開始する時間であることからRabタンパク質が小胞体上で何らかの機能を有していることを示唆している。さらにRab4、Rab10の機能抑制によりレジオネラ菌の細胞内増殖が抑制されることも明らかにした。現在、これらRabタンパク質と小胞体との関連やRabタンパク質がレジオネラ感染のどの段階に機能しているのかを解析中である。