レジオネラ肺炎に対する早期診断方法としての尿中抗原検出法の意義

1990年4月から1998年8月までの8年間に、当教室に検査依頼のあったレジオネラ肺炎疑診例を対象に尿中抗原を検出するEIAキット(2製品)の有用性を検討した。尿中抗原検出法は簡便かつ迅速な検査方法で発生早期から陽性となり、高い感度、特異度を有していた。今後レジオネラ症の確定診断に有効な検査方法として検討していく必要があると思われる。

環境水由来レジオネラ属菌の選択培地による効率的検出法の検討

Legionella属菌の培地上での発育至適pHを調べるために、pHを0.5間隔での6.0〜8.0に調整したBCYEα寒天培地、WYOα寒天培地およびMWY寒天培地を用い、それぞれの培地での菌の発育状態を比較検討した。 Legionella pneumophilaの2株およびL.micdadei1株の発育は、選択培地のWYOα寒天培地において、pH6.5と7.0以外では著しく影響を受け、両選択培地は非選択培地のBCYEα寒天培地と比べ、発育至適pHの狭いことが確認された。選択培地組成中のvancomycin(VCM)添加濃度の影響を検討した結果、Legionella属菌の中にはその濃度に依存して発育が抑制される菌株があり、それらの発育抑制の程度は菌種および菌株により異なることが確認された。同様に、 Legionella属菌以外の菌についてもVCM添加濃度が選択性に影響することから、用いる選択剤の量は検水中のLegionella属菌の種類やそれ以外の菌の種類によって使い分ける重要性が示唆された。 Legionella属菌の検出におよぼす抗真菌剤amphotericin-B(AMPH-B)の効果をMWY寒天培地に添加して検討した。AMPH-BはLegionella属菌の発育にはほとんど影響せず、冷却塔水中から分離された糸状菌のAspergillus sp., Trichoderma sp., Scole-cobasidium sp.およびMucor sp.に対して、80μg/mLの添加濃度で顕著な発育抑制効果を示した。さらに、分離糸状菌の4株とLegionella属菌3株を用い各1株づつの混合培養において、培地中にAMPH-Bを80μg/mL添加することにより糸状菌の発育が抑制され、その結果として、 Legionella属菌が効率的に検出されることを見出した、としている。

Legionella pneumophilaの温泉での生息とVNCとの関連

温泉を介したLegionella pneumophila感染が問題となっている。本菌の温泉からの検出は、ほとんどが浴槽からであるが、なぜ浴槽にに集中してL.pneumophila検出されるかその原因はよくわかっていない。我々は、本菌は、その増殖の場であるアメーバーが生息していない自然環境(環境水や土壌など)では、コロニー形成能のスイッチがoffされた一種の休眠状態(Viable but Non-Culturable;VNC)にあり、その状態で、浴槽に混入した場合、アメーバの生息する場所(特に循環型浴槽ではろ材など)でアメーバに捕食され、状況により再びVNC状態に移行するサイクルをとっているのではないかと推定した。19箇所の温泉源水にL.pneumophila SGI suzuki株の対数増殖期106cfu/mL添加し、42℃でインキュベートし経日的にサンプリングした。BacLight(Molecular Probes社)染色による総菌数と生菌数のカウント、およびPlate法によるコロニー形成細胞のカウントを行ないVNC移行過程を測定した。BacLight染色によってVNC移行性を測定できるか否かはAcanthamoebacastellanii ATCC39234による捕食後のコロニー形成能復活により確認した。(熱処理、活性酸素除去処理など試みたが復帰しなかった)。すべての温泉水において本菌のVNC移行性が確認され、少なくともアメーバの生息していない温泉水中に本菌が混入した場合、VNC状態へ移行することが明らかになった。本菌のVNC移行条件、温泉への混入源として推定される土壌中にVNC状態で存在するか否かについても現在検討している。

環境水からのレジオネラ分離における前処理法の検討

目的
レジオネラ分離における真菌の除去を目的とした前処理及び分離培養法の検討

方法
新版レジオネラ症防止指針に準じ、糸状真菌の標準菌株を酸処理法及び熱処理法で前処理してその回収率を調査した。

結果
市販選択培地の向上により、環境水中の細菌における汚染率は改善されつつあるものの、糸状真菌の影響には問題がった。今回の検討で前処理及び培養法の工夫で軽減させることができた。

循環式浴槽浄化システム実証試験装置を用いた自然汚染状況下での浴槽水等のレジオネラ属菌の推移

目的
循環式浴槽水におけるレジオネラ属菌の増殖機序や温泉箇所に関する基礎的データを得る。

方法
循環式浴槽浄化システム実証試験装置を用いて浴槽水の経時的汚染状況を検査した。(測定日数36日間)

結果
31日目に換水を行ったが、換水直後レジオネラ属菌は未検出であった。その後循環再開後には104台CFU/100mlの菌数が見つかり、アメーバも検出された。ろ過材では106台CFU/gのレジオネラ汚染菌量が認められたが、過酸化水素による洗浄殺菌後は浴槽水、ろ過器ドレン水、ろ過材においてレジオネラ属菌は全く検出されなかった。このように、今後も本システムを活用して各種殺菌装置などの実証試験を行い、レジオネラ汚染のない浴槽水の創出を目指す。

Legionella pneumophilaのAcanthamoeba内増殖を調べる定性検査方法(アメーバ寒天法)の開発

目的
Legionella puenmophilaが病原性を発揮する上で最も重要な性質と考えられている細胞内増殖能を支配するL.pneumophilaの遺伝子群(Icm/Dot)が明らかになった。これらの遺伝子群は本菌アメーバ内の増殖にも必須な遺伝子であることも明らかにされた。このことから、菌株のアメーバ内増殖能を評価すれば、その菌株の病原性を評価することが可能であることを示唆している。菌株のアメーバ内増殖能を簡便に評価できる定性法を考案すれば、多数の環境分離株の病原性を簡単に調べることができると考えられる。

方法
強毒株はモルモットで増殖し、弱毒株はGil and Shumanの方法に準じてアメーバ内増殖を経時的に測定した。また、アメーバ寒天培地を作製し、培養した。アメーバがBCYE培地の表面全体に付着した培地を「アメーバ寒天培地」、そうでないものを「BCYE寒天培地」と名付け、測定を行った。

結果
強毒株はアメーバ内で増殖し、感染2日後には100〜500倍に増殖した。BCYE寒天培地、アメーバ寒天培地の両者で集落形成が観察された。一方、弱毒株では、アメーバ内で増殖できなかった。BCYE寒天培地のみで集落が観察され、アメーバ寒天培地では集落を形成することができなかった。

考察
BCYE寒天培地のみで集落が形成され、アメーバ寒天培地で集落が観察できない菌株はアメーバ内での増殖能を失った菌株と判断でき、BCYE寒天培地、アメーバ寒天培地ともに集落を観察できる菌株はアメーバ内で増殖能を持つ菌株であると判断できる。このことは、アメーバ寒天法がアメーバ内増殖能を調べる定性法として有効であり、多数のL.pneumophila環境分離株の病原性を評価する際のスクリーニング方法として有益であることを示していると考えられる。

Loop-mediated isothermal amplification(LAMP)法によるレジオネラ属菌の検出

Loop-mediated isothermal amplification(LAMP)法とは迅速で高感度な特異性の高い新規遺伝子増幅法

目的
16S rRNA遺伝子を標的としたLAMP法によるレジオネラ属菌の検出方法の構築

方法
レジオネラ属6菌種の16S rRNA遺伝子配列からレジオネラ属菌に特異的なLAMP法のプライマーを設計し、特異性試験および検出感度試験を行った。

結果と考察
L.micdadeiを除くレジオネラ属5菌種はすべて50分以内に遺伝子の増幅が認められた。また、L.pneumophilaでは60CFU/testまで検出可能であった。これにより、今回設計したプライマーを用いたLAMP法で肺炎が疑われる患者検体から、簡便、迅速、正確にレジオネラ属菌が検出可能になると考える。

PCRを用いた環境水中におけるレジオネラ属菌の高感度検出

目的
PCRを用いて、環境水中のレジオネラ属菌を迅速かつ高感度に検出、定量できる検査法を確立するために、新たなPCRプライマーを設計し、実際に環境水サンプルからのレジオネラ属菌の検出を試みた。

方法
PCRプライマーはL.pneumophila血清群1のI6S-23S rRNA ingergenic regionの配列を基に設計された。また、浴槽水は冷却遠心後の100倍濃縮液をサンプルとした。

結果
今回設計したプライマーは、L.pneumophilaの各血清群だけでなく、L.bozemaniiL.micdadeiなど他菌種も含めたレジオネラ属菌を特異的に検出できた。また、このプライマーを用いて環境水中のレジオネラ属菌の検出を試みたところ、目的の増幅産物が特異的に検出され、この増幅産物がレジオネラであることはシーケンスでも確認された。考察:以上のことから、環境水サンプルにおいてもレジオネラ属菌を特異的に検出できることが確かめられた。現在、リアルタイムPCRを用いたレジオネラ属菌の定量も行っており、この件についても報告する予定である。会員外研究者:静岡県環境衛生科学研究所大畑克彦、鈴木光彰