新菌種提案の実例–Legionella impletisoliとLegionella yabuuchiae–

目的
産業廃棄物処分場の土壌から22株のレジオネラ属菌を分離し、内4株の菌種が同定できない事例に遭遇した。これら4株について新菌種提案のための実験を行い、正式に2つの新菌種Legionella impletisoliLegionella yabuuchiaeを提案した。その実例を紹介する。

方法と結果
22株の内、同定できなかった4株はレジオネラ属菌に特異的なPCRによりレジオネラ属であることが確認できた。夫々OA1-1、OA1-2、OA1-3、OA1-4と名付けて研究を続けた。
1.塩基配列解析OA1-1と他のレジオネラ属菌との間の16S rDNA塩基配列類似度は最も近縁なものでも95%未満で、既知のレジオネラ属菌全てと菌種レベルで異なっていることを示唆している。またmip遺伝子とrpoB遺伝子の塩基配列解析により4株は別菌種であることが示唆された。
2.染色体DNA全体の相同性DNA-DNA相同性試験を行った。レジオネラ属菌の16S rRNA遺伝子に基づいた系統樹においてOA1-1株は近縁4菌種の基準株と62%未満の類似度であった。OA1-2、1-3、1-4株は互いに高い類似度を示したが、OA1-1株や近縁4菌種との染色体DNAの相同性は非常に低かったことからOA1-1株を新しい分類群に分類し、OA1-2、1-3、1-4株をもう一つの分類群に分類する。
3.生化学的特長ゼラチナーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、馬尿酸水解などに対する生化学性状試験の結果、ゼラチナーゼとβ-ラクタマーゼの産出以外は4つの分離株は全て同じ結果であった。オキシターゼ、カタラーゼ、馬尿酸水解、色素産出は陽性、自発蛍光、硝酸塩還元、ウレアーゼ、グルコースの利用は陰性であった。
4.脂肪酸組成とG+C含量解析OA1-1と1-2の脂肪酸組成は相対的にL.jamestouniensisiと近いが、既知のレジオネラ属菌のどれとも一致しなかった。G+G含量はレジオネラ属菌の含量と一致していた。以上、形態学、生理学、生化学的特長、16S rRNA遺伝子の塩基配列解析、染色体DNAの相同性に基づいて4株はレジオネラ属の新菌種と言えることから、OA1-1株をL.impletisoli、OA1-2、1-3、1-4株をL.yabuuchiaeとして提案する。*L.impletisoli:菌種は大阪府埋立処分場の産業廃棄物で汚染された土壌より分離された。OA1-1株を基準株とする。表示はOA1-1T(=JCM 13919T=DSMZ 18493T)。
*L.yabuuchiae:日本のレジオネラ研究のパイオニアである藪内英子先生に敬意を表して命名された。菌種は大阪府埋立処分場の産業廃棄物で汚染された土壌より分離された。OA1-2株を基準株とする。表示はOA1-2T(=JCM 14148T=DSMZ 18492T)。

おわりに
新菌種提案には分類と命名について正確な知識が必要である。現在の細菌分類学では
①形態学的データ
②16S rRNA遺伝子配列データ
③ゲノムG+C含量
④DNA-DNA相同性試験データ
⑤生化学性状による既知菌種との鑑別性状
の5種データが記載すべきデータである。必要に応じて細胞壁組成やキノン分子種の決定などの情報収集も大切になる。命名においては国際細菌命名規約に準拠する。細菌学名は世界共通語であり、正確な意思疎通を図るための最も基本的手段であると認識することが大切である。

レジオネラエフェクターLidAを通じたレジオネラ感染に関与するRabタンパク質の網羅的探索

レジオネラ菌の細胞内感染において重要な役割を果たすエフェクタータンパク質。その一つであるLidAはRab1と結合することが知られているが、最近の実験で他のRabタンパク質とも結合する可能性が示唆された。宿主細胞には多くのRabタンパク質が存在し、各々が細胞内小胞輸送に重要な役割を果たしていることから、LidAが宿主細胞内で生理的に結合するRabタンパク質を同定し、それらのレジオネラ菌感染経路における機能を調べることはレジオネラ菌の細胞内発症機構の理解に極めて重要である。そこで免疫沈降を行い、LidAと共沈降したタンパク質を解析した。
①数種類のRabタンパク質がLidA結合タンパク質候補として同定された。
②同定されたRabタンパク質とLidAが細胞内にて特異的に結合することが確認された。
③同定されたRabタンパク質の数種類において、細胞内に侵入したレジオネラ菌を覆う膜構造に供給されることを見出した。現在、同定されたRabタンパク質がレジオネラ菌の細胞内感染にどのように関与しているか解析中であり、Rabタンパク質がレジオネラ菌の細胞内増殖に与える影響を調べている。

レジオネラ肺炎モデルマウスにおけるIL-17の機能

目的
感染症において宿主免疫応答に重要な役割を持つIL-17だが、その中心的な機能を持つIL-17A及び17Fの働きについて、レジオネラ肺炎モデルマウスを用いて検討した。

方法
モデルマウスを用いて、肺内のサイトカインの発現を解析した。また、気管支肺胞洗浄液中の白血球分画、肺内菌量を経時的に評価した。骨髄液誘導マクロファージ(BMDM)培養液中にIL-17A及び17Fを添加し、L.pneumophila感染により生じる炎症性サイトカイン量を測定した。IL-17A/17F欠損マウスを用いて、野生型マウスとの肺内サイトカインや感染後の生存率の差を検証した。

結果
モデルマウスでIL-17A及び17F産生を認めた。感染したBMDMの上清中にはIL-6などの産生が認められ、有意にサイトカインの産生量が増加していた。IL-17欠損マウスでは野生型と比較して、肺内のサイトカインの有意な低下、肺内菌数の低下、生存率の低下が観察されたほか、BAL液中の好中球分画の有意な減少を認め、好中球遊走性サイトカインの低下が観察された。

結論
モデルマウスにおいて、IL-17A及び17Fは宿主感染免疫に防御的に寄与していることが示唆された。

レジオネラによるIL-lβ産生に対するCRPの抑制効果

目的
炎症マーカーとして広く用いられるCRPだが、補体の活性化や細菌のオプソニン化を促進し、貪食を誘導するなどの働きがある。そこで、CRPがレジオネラ菌と細胞の相互関係に与える影響を実験により検討した。

方法
単球系細胞株THP-1に対し、L.pneumophila NUL1株(LPN)で刺激を加え、6時間後の細胞障害性について、培養上清中のIL-lβを、さらにヒトリコンビナントCRP(rCRP)との共培養後のIL-lβを測定した。また、rCRPのLPNに対する抗菌活性を測定した。

結果
LPNによる細胞障害性は、菌の濃度依存性に細胞障害を示したため、実験は障害性の少ない条件で行った。LPN刺激によりIL-lβは有意に上昇し、rCRP0.1mg/dL存在下では有意に抑制され、その抑制効果は濃度依存的であった。今回の実験のrCR濃度ではLPNの発育は阻止されなかった。

考察
本実験により、CRPは過剰な炎症を抑制している可能性が示唆され、レジオネラ肺炎の病態にも関わっている可能性が考えられた。

レジオネラ症患者由来と環境由来SG1株間の疫学的及び病原性相違に関する研究

目的
臨床分離L.pneumophilaの80〜90%はSG1である一方、人工温水環境でのSG1株分離頻度は非常に低い。欧米では臨床分離SG1株と環境分離SG1株で大きな相違があることが報告されている。本研究では、なぜ臨床分離株に特定のLPS構造をもつSG1株が集中するのか、その要因の解明を目的とする。

方法
臨床分離株、循環式浴槽水由来株、冷却塔水由来株を対象に、SG1LPS合成遺伝子クラスター内のターゲット遺伝子に対しPCRにて分類し、病原性、及び環境での生存に重要な役割を果たすLvh system等の有無を調べた。

結果
1.mAb3/1 code genelag-1陽性株:臨床分離株84%循環温泉由来24%冷却塔由来0%
2.65kb pathogenic island:臨床分離株16%循環温泉由来29%冷却塔由来86%
3.Rtx :臨床分離株84%循環温泉由来16%冷却塔由来66%
4.Lvh :臨床分離株51%循環温泉由来74%冷却塔由来66%
現在、アメーバ及びマクロファージ由来細胞への病原性について検討中であり、以上の結果から、なぜ臨床由来に特定のSG1株が集中するかについて考察する。

謝辞
アクアス株式会社に対し、環境由来株の分与に深謝

茶カテキンのレジオネラに対する殺菌・増殖抑制効果の検証

目的
緑茶の抗菌活性の主体である茶カテキン類のレジオネラ症感染制御への利用可能性を検証するためL.pneumophila(Lp)の増殖に対するカテキン類の影響を調べた。

方法
カテキン類と茶葉浸出液について、濃度及び曝露時間による殺菌性を調べた。MH-S細胞を用い、マクロファージ内増殖性に対するカテキン類の影響について、またLpの宿主であるアカントアメーバーに対するカテキン類・茶葉浸出液の作用について調べた。

結果
使用した全てのカテキン類はLpに対して濃度依存的に殺菌作用を示した。茶葉浸出液については5×106個の菌に対して0.1w/v%の培地中への添加後24時間で残存生菌が検出されなくなった。マクロファージ感染モデル実験では最大100μg/mLのEGC及びEGCg処理において菌の細胞内増殖への影響は認められなかった。Lp感染アカントアメーバーに対するカテキン及び茶葉浸出液による処理によっては添加24時間までに系全体の生菌数は濃度依存的に低下した。

公衆浴場等シャワー水のレジオネラ属菌対策とその成果

目的
文京区では平成21年に公衆浴場のシャワー水を感染源としたレジオネラ肺炎患者が発生、また実態調査でも複数の公衆浴場のシャワー水からレジオネラ属菌が検出されたことからシャワー水のレジオネラ属菌対策に力を入れている。その結果、公衆浴場のシャワー水からレジオネラ属菌が不検出となったのでその成果について報告する。

方法
1.「公衆浴場等においけるレジオネラ症発生防止に関する対策指針」をつくり、菌検出時の対応を明記した。
2.「レジオネラ症発生防止対策事業」を予算化、年間計画に基づき施設の日常の衛生管理の充実を図る為の事業を展開した。

結果と考察
平成21年度の検査では対象13施設の公衆浴場のうち7施設のシャワー水からレジオネラ属菌が検出された。対策後の平成23年度には対象全施設のシャワー水で不検出となった。その後も、平成24年度には区条例制定に伴い、シャワー水の水質基準として「レジオネラ属菌は検出されないこと」を規定した他、自動塩素注入装置設置への助成など、施設の対策向上を支援している。

富山県内で分離されたL.pneumophila血清群(SG)1の遺伝子解析

目的
富山県の人口当たりのレジオネラ症患者報告数は全国で最も多い。感染源を推定できた患者は約半数で殆どが浴用施設だが、その他の感染源は不明が多い。そこで県内で分離されたSG1について遺伝子解析を行い、患者と感染源との関連性を調査する。

方法
2005〜2009年に県内で分離されたSG1計101株を用いてPFGE、SBTを行った。由来内訳は患者26株、浴用水71株、冷却塔水3株、シャワー1株であった。

結果
PFGEで57の型、SBTで42のSTに分類され、内、17が富山県独自であった。その中でもST505は患者4株、浴用施設5株と最も多く、この9株はPFGEパターンもほぼ同一であった。冷却塔水とシャワー由来株はST1だったが患者由来株には認められなかった。また患者由来7株は独立した遺伝系統を形成し、この系統に感染した患者は浴用水、シャワー水、冷却塔水以外が感染源である可能性を示唆している。

レジオネラ属菌検査精度向上への取り組み〜外部精度管理

目的
レジオネラ属菌検査は工程が多く誤差を生じやすい。しかし、その結果が与える影響は大きく、高い検査精度が求められる。日常より精度向上に取組んでいるが、総合的には外部精度管理プログラムに参加することが望ましい。我々が参加するイギリスのHealthProtection Agency(HPA)の概要を報告し、精度向上の参考となることを期待する。

方法
HPAから航空便で送付される試料(年4回3検体づつ)にてレジオネラ属菌の培養検査を行い、検出菌数・菌種を報告、その結果が点数にて評価され、フィードバックされる。

考察
結果の評価が点数化してあるため検査者の励みとなる。検査機関は常に精度向上に努めることが望ましく、このような外部精度管理は検査精度向上に有効な手段と考える。

新種Legionella thermalis

目的
2010年8月青森県五所川原市の温泉水から分離されたHYMO-6T株のDNAの塩素配列を検討したところ既存の種には該当しなかった。新種の可能性が高いと考え、分類学的検討を行った。

方法
HYMO-6T株について近縁種とDDHを行って相同性を検討した。また酵素活性や薬剤感受性、その他性状試験を行った。

結果
新種であると考えられた。基準株HYMO-6T株は分離源である温泉に由来して、Legionella thermalisと命名した。