液体培養(Liquid Culture) EMA-qPCR法を用いたレジオネラ生菌迅速検査法の評価

目的
EMA-qPCR法は操作の煩雑さや塩素消毒による膜損傷の程度でEMA感受性が異なる等の課題がある。我々は濃縮検体に液体培地を加えて培養後のrRNA増加量を評価することで生菌の有無、生菌数を測定するLiquid Culture(LC) RT-qPCRを開発した。しかし大量のレジオネラ死菌が存在する検体では数個の生菌による増加を検出できない欠点があった。今回、液体培養とEMA-qPCRを組み合せることで、EMA感受性や判定保留等の課題を解決した生菌検出キットを開発、これを用いて実試料で測定、評価したので報告する。

方法
LC EMA-qPCRキット(タカラバイオ試作品)に改良を加えて用いた。浴槽水の1000倍濃縮液100μlを液体培養し、EMA処理を行いDNAを抽出し、qPCR法にて測定した。入浴施設から採取した試料113件を用いて平板培養法とLC EMA-qPCR法でレジオネラ属菌数を算出した。

結果
レジオネラ標準菌(L.pneumophila)を用いてLC EMA-qPCRを行った場合、1CFU当りの16S rRNA遺伝子コピー数は液体培養前12コピー、18時間培養後270コピー、18時間培養EMA処理後100コピーと見積もられ、これを換算係数とした。113件のLC EMA-qPCR法の評価結果は、カットオフ値を5CFU/100ml相当に設定した場合の感度は95.5%、特異度は75.4%で、得られる定量値はEMA処理による死菌増幅抑制効果により平板培養法と良好な相関を示した。

考察
本法は平板培養法の結果を迅速に予測可能であり、浴槽水等におけるレジオネラ生菌遺伝子検査法としての活用が期待される。

前培養を組み合わせたRT-PCR(LC RT-PCR)を用いたレジオネラ迅速検査法の阻害作用の検討

目的
前培養を組み合せたRT-PCR(LC RT-PCR)を用いたレジオネラ迅速検査において、培養法で陽性、LC RT-PCR法で陰性であった2試料をもとに、阻害物質の究明を行ったので報告する。

阻害物質の究明
1.試料は、上記温泉水2試料(A:塩化物泉水、B:炭酸水素塩泉)及び、培養法陽性、LCRT- PCR法陽性の温泉水3試料(C、D、E)とした。
2.浴槽水の水質分析は、一般細菌、従属栄養細菌、KMnO4消費量、TOC、色度、濁度、金属類、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素、pH、遊離残留塩素、結合残留塩素、フミン質、ATPについて行った。
3.AB試料共に、KMnO4消費量、TOC、フミン質、一般細菌、従属栄養細菌、ATP、色度、濁度がC、D、E試料に比べ高い値を示した。KMnO4消費量、TOC、ATPは従属栄養細菌、フミン質により高い値を示したと考えられた。色度はフミン質により高くなったと考えられた。以上のことからLC RT-PCR法を阻害した物質は従属栄養細菌、フミン質、濁質が考えられた。

阻害反応の確認
1.調整試料水として①ろ過した温泉水(フミン質18mg/l、色度90度、残留塩素

比色系PALSAR法の構築とレジオネラへの応用

目的
温泉水中のレジオネラの検出について、これまでの発光系PALSAR法では特定の反応装置や測定機器が必要であり、現場で検査を実施するには導入コストが障害であった。そこで今回、施設管理者が現場において目視で判定可能な比色系パルサー法を開発し、その有効性について検討を行ったので報告する。

方法
比色系PALSAR法は発色基質としてTMBを用いて発色反応を行った。試料として陽性コントロール合成DNAとLegionella philaderphia1菌体を使用した。滅菌した温泉水にL. philaderphia1(9×102 CFU/mL)を接種し、4〜400mLを吸引ろ過して菌体を回収し、それぞれの菌体希釈液(9.0×102〜9.0×104 CFU/mL)を調整し測定を行った。大浴場、露天風呂の温泉水を採取し、比色系PALSAR法でレジオネラの検出を行った。

結果および考察
陽性コントロール合成DNAを用いて検討したところ、10〜50fmol/mLで発色を目視で確認できた。L. philaderphia1を用いて検出限界を確認したところ、菌体希釈液濃度で4.3×103 CFU/mLであった。また、滅菌した温泉水に接種した場合9×102 CFU/mLの菌体希釈液でも発色が確認された。男女大浴場、女子露天風呂でレジオネラ属菌が検出されたのに対して、培養法では男女大浴場のみ検出された。男女大浴場では、AP(-)でも発色が確認されたことから、温泉に含まれる何らかの成分が影響したと考えられた。これらの結果から、比色系PALSAR法は温泉水中のレジオネラに対して目視で判定できることが確認された。

濾過装置におけるレジオネラ標準株を使用した培養方法の基礎的検討

目的
循環式等の温浴施設での濾材からレジオネラ菌(以下L菌)を分離する前処理方法については充分な検討がなされていない。検討には実施設由来株のみならず、L菌標準株を使用した実験が必要である。今回、濾過装置におけるL菌標準株を用いて、栄養条件を変えた培養方法について検討を行った。

方法
濾過装置は模擬温浴施設を設定し、定期的に水中のL菌測定を行い、模擬浴槽水の組成等を変更して培養条件の検討を行った。
①模擬浴槽水の組成は増菌培養時の主な栄養素源を乳酸カルシウム、粉ミルク、尿素とし、週2回の頻度で模擬浴槽水の全換とともに添加した。
②栄養源をL-Cysteine4.8mg/L、及び細胞培養培地1000倍希釈添加に切り替え、全換せずに同様の頻度で添加した。
③装置内の濾材を取出し、濾過装置、模擬浴槽及び配管内を清掃及び塩素消毒後、新たに濾材を敷き詰め、栄養条件を②と同様とした。

結果
①試験開始0日にL菌標準株によりマクファーランド濁度0.5とした菌液1mLを濾過装置に移植し、更に49、53日にマクファーランド濁度6とした菌液を1mLずつ移植したが、L菌は水中より消失し、検出されなかった。
②栄養条件の切り替えと共に、56、61、64日目に環境変動に強いと考えられる実施設の環境由来株を用いてマクファーランド濁度6とした菌液を1mLずつ添加したが、L菌は消失せず、64日目の最後の移植後も増加傾向にあった。その後、栄養条件を①に戻したところ、水中のL菌は減少した。
③装置内を新たにし、②と同じ栄養条件とした。一般細菌の増殖が止まった13〜15日目にL菌標準株を用いてマクファーランド濁度6とした菌液を1mLずつ移植した。L菌は継続して減少傾向にあったが①の方法と異なり水中より消失することはなかった。

考察
濾過装置を用いたL菌標準株の培養においても増殖にはL-Cysteineの添加が必須であることが確認された。今後、L-Cysteineを添加したL菌の好適な培養条件の検討を重ね、水系のL菌検査は元より、濾材に付着する微生物膜からのL菌の定量化を図り、循環式等の温浴施設の衛生管理に繋げたい。

遺伝子解析法による微生物同定法-レジオネラ属菌の生菌迅速検出法を例にとって-

目的
従来の培養法と比べ、より簡便かつ迅速に結果が得られる遺伝子解析法が普及しつつあるが、遺伝子解析法は生菌と死菌の区別が出来ない点が課題である。そこでPCRによる生菌選択的な検出法としてEMA-PCR法が開発された。ここでは、EMA-PCR法を応用したLCEMA-qPCR法によるレジオネラ属菌の生菌迅速検出法を紹介する。

方法および結果
LC EMA-qPCR法は液体培養による生菌の選択的増殖とEMA処理による死菌由来DNAの増幅抑制の組合せにより、迅速性と生菌選択性を両立させた手法である。113個の実検体を用いて培養法との比較解析を行った結果、感度95.5%、特異度75.4%の良好な結果が得られ、本法の有用性が実証された。本法では簡単な操作で培養結果を迅速に予測できるため、一次スクリーニング等への活用が期待される。

考察
遺伝子解析法は微生物の検出の他にも、近縁種や血清型の判別や微生物種の推定等に応用されているが、高速シーケンス技術の発展によりより包括的な微生物検査も可能になりつつある。今後、遺伝子解析法が活用される場面がさらに拡大するものと考える。

レジオネラ対策におけるATP検査の有用性に関する検討

目的
上木らは、生物がもつATP量を10数秒で測定するルミテスターを用いた浴槽水の検査においてATP値の上昇と共にレジオネラ属菌検出率も上昇する傾向を確認したが、その測定法は現場で行う検査としては操作が煩雑であり、コンタミネーションが懸念された。そこで、簡便なサンプリング方法を検討し、その有用性を確認した。また水用サンプラー試作品と従来品の拭取り用サンプラーとの比較についても報告する。

方法及び結果
1.サンプリング方法の検討拭取り用サンプラーの綿棒部分を滅菌精製水に浸し、浸水時間ごとの吸水量を測定した。吸水量は時間と共に増加し、20秒後149.98μLとなり、その後ほぼ一定の値を示した。
2.L.pSG1の濃度とATP値の関係L.pSG1を滅菌精製水に懸濁し希釈系を作成後、ルミテスターを用いてATP値を測定した。拭取り用サンプラーと水用サンプラーを使用したが、どちらもL.pSG1の濃度とATP値に相関があり、検量線は直線性を示した。
3.千葉県内の入浴施設における浴槽水中のレジオネラ属菌検査結果とATP値の比較現場で浴槽水のATP値を測定、ろ過濃縮法で浴槽水中のレジオネラ属菌検査を行った。拭取り用サンプラー使用ではATP値が0-24RLUでは2.6%、25-49RLUでは15.4%、50RLU以上では38.6%の検出率でレジオネラ属菌が検出された。一方、水用サンプラー使用では4.5%、0%、33.3%の検出率であった。このことから、上記方法でATP検査を行えば、現場における適切な指導・助言等を行うことができ、迅速で効果的なレジオネラ対策が可能になると思われる。

EMA-qPCR法による浴槽水からのレジオネラ属菌検出結果

目的
遺伝子検査法は培養法と比較して迅速性に優れているが、レジオネラ属菌の生菌のみならず死菌も検出するため、それを改善するEMA-qPCR法が考案され実用化されている。本報ではEMA処理あり・処理なしのqPCR法と、培養法による検出結果を比較し、EMA処理の効果について評価した。

方法
浴槽水111検体からqPCR法および培養法によりレジオネラ属菌を検出した。EMA-qPCR法はろ過濃縮した検体をEMA処理し、反応液を調整しqPCRを行いレジオネラ属菌の16S rRNA遺伝子を定量した。同様にEMA処理なしの試料も調整してqPCRを行い、培養法と比較した。

結果
レジオネラ属菌の陽性率は111検体中、培養法が30検体、EMA-qPCR法が49検体、qPCR法が83検体であった。培養法陰性でEMA-qPCR法陽性は23検体、培養法陰性でqPCR法陽性は54検体であり、EMA処理によって不一致が半分以下に減少した。EMA処理しても不一致となる理由は検体の性質(沈殿物の存在など)により適切に処理できないことや、培養法で検出できないViable but nonculturable状態のレジオネラ属菌が存在している可能も考えられる。また、浴槽水のレジオネラ属菌検査では培養法陽性で遺伝子検査法陰性の不一致は生じない必要があるが、培養法陽性でEMA-qPCR法陰性は4検体、qPCR法陰性は1検体であった。これはLAMP法での不一致と同レベルであるが更なる精度の向上が必要である。

考察
EMA-qPCR法は培養法陰性、遺伝子検査法陽性の不一致を半減させており、迅速検査法の適用の可能性を広げる手法であり、処理条件などの検討により更に有効な手法となることが期待される。

レジオネラ検査ろ過濃縮法におけるメンブランフィルター材質の回収率比較

目的
レジオネラ症防止指針におけるレジオネラ検査方法にはろ過濃縮法に使用するメンブランフィルターの直径及び孔径の記載はあるが、材質についての記載はない。材質が浴槽水試料からのレジオネラ回収率に影響を与える可能性が考えられるが材質別回収率は明らかにされていない。そこで、本研究では国内で入手可能なメンブランフィルターを用いて材質別回収率の比較検討を行った。

方法と結果
1.実験には直径47mm、孔径0.20-0.22μmのオートクレープ滅菌可能なメンブランフィルター、製造メーカー4社(A、B、C、D)の6材質10種を使用した。
①ポリカーボネート3種(A、B、C)
②混合セルロース3種(A、B、C)
③セルロースアセテート
④親水性PTFE
⑤親水性ポリエーテルスルホン
⑥親水性ポリスルホン
レジオネラ試料水にはLegionella pneumophila ATCC33152を使用し、ろ過濃縮は防止指針に準じて実施した。レジオネラ回収率は試料水の菌数を100%とし、それぞれのメンブランフィルターろ過濃縮後のレジオネラ菌数を用いて算出した。材質別の回収率はポリカーボネートAが最も高く、続いて同B、同Cと、ポリカーボネートが高い回収率を示した。セルロース系はポリカーボネートに比べて回収率が低く、最も低かったのは混合セルロースBであった。
2.また、「ボルテックスミキサーでの1分間振盪」と、「ミキサー振盪に加えて激しく上下に手で50回振盪」の2方法による剥離方法での回収率についても検討を行った。ポリカーボネートA、C及び親水性ポリエーテルスルホンはミキサーに加え手で振盪の操作を加えたことにより有意に回収率が低くなった。一方、混合セルロースC及びセルロースアセテートは有意に高くなった。今回使用した孔径0.20-0.22μmのポリカーボネートはボルテックスミキサーのみでの剥離方法のほうが高い回収率を得られ、他の材質に比べ有意に回収率が高かった。均一な円筒状孔の直孔を持ち、滑らかな表面構造によりメンブランフィルター表面上に捕集されたレジオネラが剥離操作で十分に剥離されたため、他と比較して高い回収率が得られた可能性が考えられた。
3.更にろ過時間について計測した結果、空隙率の低いポリカーボネートが他より長いろ過時間を要した。ポリカーボネート3種の比較ではAが約10分、Cが約倍の20分を要し、同じ材質でも製造メーカーの違いによりろ過速度が異なることが明らかになった。以上の結果、回収率に加えてろ過時間を考慮すると、ポリカーボネートAが最も有用であると考えられる。

考察
日本ではレジオネラ症防止指針等の試験法において、レジオネラ検査ろ過濃縮法におけるメンブランフィルターの材質に関する記載がない。しかし、今回の実験において表示孔径が同等であっても材質によって回収率が異なることが明らかになった。レジオネラ検査過程の一過程であるろ過濃縮においても、フィルターの材質により回収率に相違が見られることから、各検査過程で種々の方法で検査が実施されている現状では全ての検査実施施設における回収率の差は非常に大きいと考えられる。検査精度向上においても、統一されたレジオネラ検査方法が示されることが期待される。

超音波処理による拭取り試料からのLegionella sp.検出法の検討

目的
Legionella sp.の検査で水試料以外にバイオフィルム採取を目的に拭取り試料も検査対象としているが、同一箇所から採取した水試料・拭取り試料の内、水試料のみから菌が検出される事例が複数認められたため、拭取り試料からの検出法を検討したので報告する。

方法
L.pneumophilaPseudomonas sp.、Microbacterium sp.、及び土壌を温泉水に添加しバイオフィルムを形成させ、拭取りキットの綿棒で拭い20本の試料を作成した。試料を滅菌水中で1分間攪拌の後、超音波洗浄器で時間を変えて超音波処理し、処理時間毎のL.pneumophilaの菌数を計測した。

結果
無処理との比較は次の通り。300秒は同値、240秒は5倍、180秒は10倍、120と60秒は7倍、30秒は5倍、20と10秒は3倍、5秒は1.5倍であった。

考察
超音波処理は従来法で菌を検出できなかった拭取り試料に対して、菌分離の可能性を高めることを示唆している。

レジオネラのL7/L12リボソーム蛋白をターゲットとした新規迅速診断キットに関する検討

目的
レジオネラの迅速診断には尿中抗原検査が頻用されているが、L.pneumophila血清型Ⅰ以外に対する診断率が低いこと、過去の肺炎既往症との関連に注意が必要なことなどから、今回、細菌のリボソーム蛋白の一つ、L7/L12蛋白を抗原とする尿中抗原診断キットを考案、その有用性についてマウスを用いて検討を行った。

方法
A/JマウスにL.pneumophila血清型1~9、L.dumoffii他を気管内接種し、感染後の肺内菌数等の測定を行った。

結果
L.pneumophila血清型1感染後、肺内菌数の増減に伴い、肺ホモジネート上清・尿中L7/L12蛋白値も増減し、菌数との相関が認められたのに対して、既存キットでは肺内菌数が減少しても、陽性が持続した。またL7/L12蛋白は血清型1のみならず、他の血清型や菌種においても陽性を示し、肺内菌数との相関も認められた。

結論
以上の結果から、本診断キットは既存の迅速診断キットと比較し、より臨床診断に有用であると考えられた。