レジオネラ文献

レジオネラと宿主真核細胞の相互作用

レジオネラは自然界では自由生活性アメーバを自然宿主とする、ありふれた細胞内寄生性細菌でありながら、一旦人に感染すると肺胞マクロファージに感染・増殖し、最終的に重篤な肺炎を引き起こす。レジオネラの非常に広範囲の真核細胞内で生存・増殖できる能力を担うのは、レジオネラ全タンパク質の約1割を占めるエフェクタータンパク質群およびこれを輸送するIV型分泌系である。本稿では我々の研究を中心に、レジオネラと真核細胞の相互作用の分子基盤について概説する。

レジオネラ文献

レジオネラ症の国内外の動向

患者発生状況
レジオネラ症は4類感染症(全数把握)であり、診断した場合にはただちに保健所に届ける義務がある。患者の届出数は2004年までは年間150例程度であったが、2005年から増加し新型インフルエンザの大流行があった2009年にいちど減少したものの、その後一貫して増加している。2014年は暫定値ながら1,236例となった。

環境における生息状況
現在、レジオネラ属菌には57種が報告されていてそのうち、人から分離あるいはDNAが検出された菌種、肺炎患者で血清抗体価の上昇をもたらした菌種は30種である。道路の水たまりやシャワー水(浴用施設)の検出率が高く、次いで浴槽水、冷却塔水、修景水となっている。多数の加湿器の調査はまだなされておらず検出率は不明である。

培養法(斜光法)
実体顕微鏡を用いてコロニー観察し、その特徴的なモザイク様コロニーの外観を観察すること、コロニー由来のDNA検査を合わせて実施すること、長波紫外線下の青色自発蛍光観察と組み合わせることによって多様性のあるレジオネラの菌株を、3日目まで培養を短縮し分離できる。

遺伝子迅速検査
平成27年3月末に「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」が厚生労働省健康局生活衛生課長通知として改正され、迅速検査の利用が記載されている。塩素消毒すると菌は増殖できなくなり培養法で不検出となるが、核酸はしばらく残り検出される。レジオネラの核酸が検出されることは、レジオネラの増殖する環境が存在したことを示唆し、洗浄効果の判定(陰性証明)とともに衛生管理に役立てることができる。
伝子増幅による生菌の選択的な検出は、EMA処理により死菌由来のDNAの増幅を抑制することで実現され、培養法との相関という意味では冷却塔水より浴槽水の検査に適している。LC ENA qPCR法は平板培養法と高い相関を示した。EMA qPCR法の平板培養法に対する感度、特異度は、いずれもLA MP法より高かった。LC EMA qPCR法と平板培養法の菌数比較では高い相関を示し全体として平板培養法の菌数を反映していた。

ATP測定を利用した衛生管理
ATPを利用して日常的にバイオフィルムや浴槽水中の菌数を管理すれば、レジオネラ検出率を低くすることが可能である。ATPにより相対発光値を閾値以下に保つことによりレジオネラの汚染リスクを下げる衛生管理方法を例示した。

国内散発事例
日本では7月にレジオネラ症の患者が多く、梅雨時期の温度と湿度が菌の増殖に都合が良いためと考えられている。家庭の24時間風呂で感染した事例、少数の菌でも感染する溺水事例、24時間風呂における水中出産による新生児感染事例、腐葉土からの感染事例、高圧洗浄機を使用して感染した事例、公衆浴場のシャワーからの感染事例、太陽熱温水器を利用した給湯系からの感染事例がある。

国内集団感染事例
日本における2008年以降の集団感染の事例では、1事例あたり2〜9例の確定症例が報告されている。高齢者福祉施設の事例を除き全て入浴設備が感染源となっているのが特徴である。

海外散発事例
日本で報告されていない事例としては、歯の治療に関連して感染した事例、粉ミルクによる新生児の感染事例が報告されている。

海外集団感染事例
海外の大規模な集団感染事例では、入浴設備による感染は少数で、冷却塔を感染源とするものが多い。50名以上の患者の報告された事例は少なくとも34件ある。

外部精度管理
適切に検査されず非検出あるいは検出される菌数が少ない検査機関に検体が集まることがないように、検査機関の外部精度管理が必要である。ヨーロッパなどではHealth Protection Englandにより、米国では米国CDCにより実施されている。

分子疫学
SBTにより、結成分1の国内分離株を遺伝子型でグループ分けすると、浴槽水分離株が多く含まれるB1、B2、B3、冷却塔水分離株が多く含まれるC1、C2、土壌水たまり分離株が多く含まれるS1、S2、S3、感染源不明の臨床分離株が多いUグループの大きく9つに分かれることを見出した。

防止対策
遊離塩素消毒がすべての浴槽の安全を担保するとはいいがたい。研究班では、米国の水道で実用化されているモノクロラミン消毒に着目し、モノクロラミン消毒の入浴施設への応用について検討を行った。改正された「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」で、モノクロラミン消毒が掲載された。

レジオネラ文献

レジオネラ属菌と給湯設備

厚生省(現厚生労働省)を中心にレジオネラ属菌に関わる調査・研究・検討が進められ、これらの成果は厚生省生活衛生局長通知や告知、建築物衛生法施行令などに反映されてきた。レジオネラ症の防止指針策定に向け、平成4年度に「在郷軍人病予防のためのガイドライン作成調査」を実施し、翌年度に「レジオネラ防止指針(第1版)として発行された。平成11年には給水・給湯設備、冷却塔と冷却水系、加湿器、水景施設、蓄熱槽、循環式浴槽等に着目して第2版「新版レジオネラ症防止指針」が発行され、平成21年に未然防止から早期発見・早期治療、感染拡大防止を目的とした第3版「レジオネラ症防止指針」が発行された。

循環式を採用している給湯設備においては塩素消毒の効果は期待できず、システム内のいずれかの個所で常時温度が55℃未満になる場合には、レジオネラ属菌が発生する可能性が極めて高くなることがうかがい知れる。現在、循環式給湯方式が採用される中央給湯設備、スポーツ施設、浴場施設等での循環式浴槽設備に対するレジオネラ症防止に関わる法的基準および指針等において、設計や維持管理に関わる内容はかなり充実してきている。

労働安全衛生法において給湯ボイラや貯湯槽には、温度上昇に伴う膨張を吸収するための逃がし管または逃し弁の設置が義務付けられており、逃がし管が設けられてきた貯湯槽は多く存在する。1970年代に都内に竣工したAホテルの貯湯賞からの逃がし弁を対象としてレジオネラ属菌の調査を行った。12検体のうち、8検体からレジオネラ属菌が検出された。レジオネラ属菌が発生していた主要因として、逃し管内の水温が低いことが挙げられた。

2000年〜2009年に都内において分離されたLegionella pneumophilaの遺伝子型別について

目的
Legionella pneumophilaは臨床材料からの菌の検出率が低く、型別検査は困難であった。そこで、臨床検体や浴槽水などからの遺伝子の直接検出、及びSBT法による型別試験の構築のため当センター保存菌株についてSBT法を実施し、ST分布について検討を行った。

方法
臨床材料、浴槽水などから分離された85株についてEWGLI法に従って型別を行い、遺伝子型を決定した。

結果
1.臨床分離株及び浴槽水-STに多様性が認められた。
2.冷却塔水及び浴場施設内給湯水-ST1型が多い。多様性に乏しい。
3.臨床分離株と浴槽水由来株でSTが一致するものが認められたが、冷却塔由来株で多く認められたST1は認められなかった。

社会福祉施設の浴場におけるレジオネラ対策の実施調査結果について

目的
社会福祉施設の浴場は公衆浴場法の適用対象外となっている。しかし利用者の大半がレジオネラ症の感染リスクの高い高齢者であり、適切な維持管理が必要なことから大阪府では平成20年3月にレジオネラ症発生防止対策要領を策定、社会福祉施設設置者に対する助言指導の指針を定め、さらに講習会を実施してきた。今般、所管内社会福祉施設の浴場について要領に基づく衛生管理の実施状況を確認するため実態調査を実施した。

方法
循環ろ過設備構造の浴場を有する34施設を対象に立ち入り調査を実施、浴場の構造設備、管理状況、書類保存状況等の確認と改善への助言指導を行った。

結果
及び考察: 1)塩素系薬剤による消毒の実施100%。1日3回以上濃度測定実施38.2%(13施設)、濃度保持施設は17.6%(6施設) 2)レジオネラ属菌が繁殖しやすいろ過器、循環配管の高濃度塩素消毒の定期的実施35.3%(12施設)、内、頻度は年2回以上が最多3)ろ過器の効果的な消毒(ろ過器直前の塩素注入口設置)41.2%(14施設) 4)集毛器の毎日の清掃実施30.3%(10施設) 5)浴槽水の換水頻度週1回52.9%(18施設)、2回41.2%(14施設)、1日1回5.9%(2施設) 6)水質検査(レジオネラ属菌、濁度、有機物質、大腸菌群)年1回以上実施64.7% (22施設)以上の結果を管内公衆浴場の調査結果と比較したところ、換水頻度・水質検査実施状況は社会福祉施設の適合率が高く、高濃度塩素消毒等は公衆浴場の適合率が高い結果となった。施設管理者のレジオネラ症に対する意識は高い反面、衛生管理への理解が十分でない面もあり、今後は公衆浴場に準じた助言指導によりレジオネラ症の発生防止に取り組んでいきたい。

レジオネラ症のリスクマネジメント1レジオネラ属菌の細菌学

はじめに
レジオネラ属菌は2009年までに51菌種が正式に命名されているがこれらは菌種・菌株間に生物学的多様性があることが明らかにされてきた。現在までに22菌種がヒトに病原性を持つことが報告されており、病原性にも多様性が示されているがL.pneumophilaの研究のみが進められてきた。本稿ではレジオネラ属菌の細菌学的性状について菌種・菌株間の共通点と相違点を明らかにしたい。またL.pneumophilaの分子細菌学についても紹介する。

レジオネラ属菌の共通性
①グラム陰性の好気性桿菌で鞭毛を持つ(L.oakridgensis L.londiniensis L.nautarumを除く)
②BCYE寒天培地上で増殖するが通常の血液寒天、Muellar-Hinton培地上では増殖しない。
③増殖にはシステインと鉄を要求する。
④発育至適温度は36℃前後、40〜50℃以上では増殖しないか死滅する。
⑤エネルギー源、炭素源として糖類を利用せず、アミノ酸を利用する。
⑥細胞壁は他のグラム陰性菌と比較して分枝脂肪酸が優位である。
⑦ユビキノンのイソプレン単位数が9〜14と多い。
⑧カタラーゼ陽性
⑨硝酸塩を還元しない。
⑩ベータ・ラクタマーゼを産生する。

L.pneumophilaの細菌学的性状の概略
本菌は湿った土壌や河川などの水中に棲息し、細菌捕食性原虫の中で増殖でき、自然界において原虫が主な増殖の場と考えられる。人工的環境では冷却塔水、給湯設備、浴槽水などに棲息、本菌をヒトが吸入することで肺に吸入された菌はMφ内で増殖する。また株化培養細胞内でも増殖できる。

原虫内でのレジオネラの増殖
本菌は細菌捕食性原虫に捕食された後、その食胞内で増殖し原虫を殺すことができる。L.pneumophilaは10数種の細菌捕食性原虫の中で増殖できること、また菌種により増殖をサポートする原虫の宿主域があることが報告されている。原虫内増殖はレジオネラ属菌の水環境及び土壌中での増殖に主要な役割を担っていると思われる。

株化培養細胞内でのレジオネラの増殖
菌種により増殖に適した細胞が異なるとの報告がある。我々はVero細胞内で増殖しつつあるミクロコロニーの形態が種間で異なった特徴の形態を示すことを観察した。この形態の違いは菌の性質の違いを反映していると思われる。

Mφ内でのレジオネラの増殖
ヒトに病原性が報告されているレジオネラ18菌種についてマウスとモルモットのMφ内の増殖能を調べ、4グループに大別した。
①グループⅠ・・・モルモット、A/Jマウス、C57BL/6マウスのMφ細胞内で増殖(L.micdadeiなど11種)
②グループⅡ・・・モルモットMφ内でのみ増殖(L.anisaなど3種)
③グループⅢ・・・モルモット、A/JマウスMφ内で増殖(L.pneumophila、L.joudanis)
④グループⅣ・・・いずれのMφ内で増殖せず(L.hackeliae、L.cincinatiensis)本実験では一菌種につき一株しか使用しておらず、各菌種の菌株数を増やした検討が必要であるが、菌株に多様性があることは確かである。

L.pneumophilaのMφ内動態の概要
主に補体受容体(CR1、CR3)を介してMφに貪食される。この場合、レスピラトリーバーストによる活性酸素の産生は少ないが、菌体表層に分泌されるCu、Zn-SODとMipタンパクにより酸素依存性殺菌に抵抗する。その後、ファゴソームの酸性化やリソソームとの融合を阻害することで酸素非依存性殺菌に抵抗し細胞内で増殖を開始する。菌を貪食したファゴソームの回りには滑面小胞体由来の小胞が集まり融合し、ファゴソーム膜は小胞体膜に置換わりミトコンドリアも集まる。その後、リボソームが変容したファゴソームに付着し、その内で菌は増殖を開始する。但し、弱毒株の場合はファゴソームとリソソームの融合で菌は殺される。これら細胞内小器官の集合は菌側からの情報が細胞側へ伝達されることで引起こされている。その通路となる分泌機構(Ⅳ型分泌系亜型)Icm/Dotトランスポーターにより細胞側へ30種以上のタンパクが送り込まれ、Mφ機能の混乱(ファゴソームの酸性化阻害、ファゴソームとリソソームの融合阻害など)が起こると考えられる。また、細胞内増殖後期、及び感染細胞を殺して細胞外に出た菌には、増殖中の菌にはない鞭毛が観察され、染色性、呼吸活性、細胞壁の形態構造、運動性、細胞への感染性、酸への感受性でも異なりを見せ、分化する菌であることが分かる。一方細胞内増殖後期のリボソーム付着ファゴソームは酸性化し、リソソームが融合するが、Transmissible formに分化した菌は殺菌に抵抗して増殖することができる。

L.pneumophilaのゲノムの概要
Paris株、Lens株、Philadelphia-1株のゲノム比較による解析によると
①サイズは約3.5Mb(大腸菌K-12株より1Mb小さい)
②ゲノム配列の内、88〜90%が遺伝子をコードしている領域として占めている
③機能不明遺伝子は43%
④特異的遺伝子は全ての遺伝子の10〜14%と、割合が非常に高い。
⑤真核細胞の蛋白質と相同性の高い30の読み枠(ORF)が存在し、32のORFは真核細胞において蛋白質間の相互作用に関与する機能を持っている。これらの真核細胞類似タンパクが細胞内増殖を可能にしていると考えられる。

おわりに
今後、L.pneumophila以外の菌種を使用した研究や、環境水中に存在する、人工培地では発育できないが生きている、といった生理状態の菌株の病原性の研究も必要とされている。また、レジオネラ属菌が生体に侵入後、食細胞外でも増殖できるのかどうか等、未だ不明の重要な問題もあり、今後も地道な努力が必要である。

レジオネラ症のリスクマネジメント3レジオネラ属菌の生息状況

はじめに
今般レジオネラ症防止指針が改訂されたが、基礎的なデータが欠如していることを改めて痛感した。そこで古いデータではあるがレジオネラ属菌の分布等について詳細に示し、またL.micdadeiに関する最新データを示すことにより本菌の生態学的特性を十分理解し、適切な対応の一助としてもらいたい。

土壌におけるレジオネラ属菌の分布状況
①1、362試料中86試料(6.3%)から分離され、日本全国に分布(31都道府県66%)していることが明らかになったが地理的な分布傾向は認められなかった。
②年間を通して土壌中に生息していたが、特に3、9、10、12月の分離率が10%を超え高率だった。秋期(415試料中40)、冬期(277中21)、春期(334中18)、予想に反して夏期(336中7)が最も低かった。
③最高頻度に分離された菌種はL.pneumophila(80.2%)で、血清群1群(32.3%)、3群(17.2%)、5・6群(各7.5%)であった。1群は北海道を除く各地、3群は関東、中部、中国、九州、5と6群は近畿より東の地域で分離された。次に頻度が高かったのはL.sainthelensis(5.2%)で、その他L.anisaなどが僅かに分離された。
③分離された場所は道端(26.7%)、庭(16.3%)、植込み(14%)、畑(11.6%)で、弱酸性から弱アルカリ性の土壌に広く生息していることが分かった。分離菌種と分離月には顕著な傾向はみられなかった。
③深層部土壌では、60試料中6(10.0%)から分離され、表層から20〜30cmの深さの土壌中にも生息していることが確認できた。何れもL.pneumophila血清群1群であった。

温泉水におけるレジオネラ属菌の分布状況
③全国各地の710試料中204試料(28.7%)から分離された。地域による顕著な差は認められなかった。採水場所では内湯より露天の分離率が僅かに低かった。循環式と掛け流しの分離率、検出菌数に有意な差は見られなかった。pH別では弱酸性、中性の環境下で高率に存在していることが明らかになった。菌数は少ないが各地の温泉水に広く生息しているといえる。
③上記204試料から分離された251株のレジオネラ属菌はL.pneumophila(245株、97.6%)が最も多く、血清群では1群(54株21.5%)が最多、次いで5、6、4、3、10群の順に多く群別され、2と14群は該当しなかった。また菌数の多かった10試料の血清群別の特徴的傾向は認められなかった。

L.micdadeiについて
①温泉水55試料からL.micdadeiの分離を試みた。3試料、広島県の温泉プール水と内風呂浴槽水(アルカリ性単純泉、pH9.1)と神奈川県の露天風呂浴槽水(ナトリウムー塩化物強塩泉、ナトリウムイオン10、920?/l、pH7.4)から分離された。
②3試料から各3株、計9株のPFGEパターンを検討した。広島の施設では同一起源のL.micdadeiが施設全体を汚染している可能性が考えられた。一方、神奈川の施設から検出されたL.micdadeiは広島とは起源が異なること、また同一施設内でも起源の異なるL.micdadeiが同時に生息していた。
③アメーバ内増殖性試験の結果、温泉水から分離したL.micdadei27株はアメーバ寒天培地上でも集落を形成し、BCYEα寒天培地上の集落との差は認められず、これらの菌種はいずれもAcanthamoebaの細胞内で増殖したと考えられる。また、モルモット由来単球中におけるL.micdadei K2株は、細胞質内で増殖し、核が圧排されていることが確認された。また塗沫標本内の単球の内、L.micdadeiの増殖により破壊されているものが散見された。いずれも病原性であると考えられた。

おわりに
レジオネラ属菌は土壌や温泉の広い範囲に生息し、環境常在菌であることが確認された。感染源対策が急務とされているが、あらゆる環境中でレジオネラ属菌ゼロを目標にするのではなく、レジオネラ症発生防止を目的に、持続的な衛生管理が得策であろう。

レジオネラ症のリスクマネジメント4レジオネラ属菌とアメーバ

はじめに
冷却塔水や浴槽水などの水系環境がなぜ容易にレジオネラ症の感染源となるのか。レジオネラ属菌の宿主となるアメーバはその疑問を解くキーワードとなる。今回、アメーバの生物的特長や宿主としての重要な役割、また生活環境における実態について紹介し、アメーバからレジオネラ症を考える機会としたい。

宿主となるアメーバ類
①Vahlkamphia科アメーバが宿主アメーバとして知られている。小型アメーバに属し、主に細菌食である。レジオネラ属菌はエサとして取込まれ、アメーバ内に入り込む。シストを形成するものがいるがシスト化前に栄養体に潜入した菌はシスト化後もその中で生き残る。
②水温はアメーバの生態に重要な環境要因である。冷却塔水、浴槽水はアメーバ、レジオネラ属菌にとって増殖可能な温度環境である。

アメーバは環境におけるレジオネラ属菌の培養装置
①アメーバはレジオネラ属菌をエサとして取込み、取込まれた菌は食胞内で増殖を開始する。多量に菌が増殖したアメーバは死滅し、菌を多量に含んだ液胞が崩壊することで菌は外界に放散、環境中に蓄積する一方、新たな宿主へと感染する。まさにアメーバはレジオネラ属菌の培養装置であり感染の媒体といえよう。
②レジオネラ属菌の細胞内増殖は25℃以上では活発に増殖するが、低温では細胞内増殖能力を失い、ファゴソーム内で消化されてしまう。

アメーバとマクロファージ
①アメーバで増殖、感染力を備えたレジオネラ属菌がヒト体内のマクロファージに取込まれることでヒトのレジオネラ感染が起こる。菌はアメーバ感染、細胞内増殖という能力をマクロファージ内で発揮する。
②マクロファージにおけるレジオネラ属菌は増殖段階では運動性はなく、増殖が最大限まで達する段階になると運動性が表れる。アメーバ内でも増殖の終期に運動性を発現し、感染能力を備えた形質に変わる。菌はアメーバ内、あるいはアメーバから放出された時に活性化し、感染力を保持する。

アメーバでレジオネラ属菌検出
レジオネラ属菌の検出に、アメーバが培養装置になることに着目し検出ツールに利用する試みがされている。L.pneumophila以外の感染が疑われる場合はアメーバ培養法を、また土壌からの菌検出にはアメーバと試料の共培養が有効とされている。

レジオネラ属菌の宿主特異性
①菌種により細胞内増殖性に違いが見られる。菌自体の特質に加え、どの菌種がどのアメーバを好むかという宿主特異性による可能性が出てきた。これはアメーバの生態がレジオネラ属菌の分布を規定している可能性を示すことでもある。
②レジオネラ属菌にはアメーバ内でのみ維持可能な菌種LLAPが存在する。現在検出は容易ではないが、公衆衛生上、健康上の問題となるかどうか注意する必要がある。

アメーバ内増殖で菌の性質が変わる
①レジオネラ属菌はアメーバ内で増殖することで感染性を向上させる。
②抗レジオネラ剤はアメーバには無効であり、アメーバ内のレジオネラ属菌は薬剤から保護され、さらに感染アメーバがシスト化する場合は、増殖はやめるが活性を維持し、シストに守られ強い抵抗力を示す。
③アメーバ内増殖はレジオネラ属菌の生理・生化学的性質の変換要因となり、感染性維持、薬剤耐性の面でレジオネラ症の問題を難しくしている。

アメーバがレジオネラ属菌を伝播する
アメーバのベクターとしての関与は実証されていないが、活性高い菌が一度に多数運ばれるとすれば、感染アメーバが少数でも感染効率は極めて高くなる。エアロゾルに加え、感染経路の可能性も否定できない。

レジオネラ感染のDose paradoxとアメーバ
感染と濃度の関係解明はレジオネラ症の実態理解、予防対策の上でも重要である。宿主アメーバのベクターとしての多様な機能はこの問題解決のキーワードとなる。

レジオネラ属菌の宿主アメーバ汚染の実態
アメーバ対策=バイオフィルム対策=レジオネラ対策
①冷却塔の汚染対策は薬剤処理に絞られるが抗レジオネラ剤はアメーバコントロールには効果なく、アメーバ内に潜伏する菌にも無効である。抗アメーバ剤の開発を含めた対策が求められる。
②温泉の源泉からはアメーバが不検出だったことから湧出後、浴槽にお湯を溜めることにより汚染が起こると想定される。循環式浴槽ではろ過装置がバイオフィルムの集合体となり、菌の供給源となっている。塩素ではアメーバコントロールは難しく、近年、二酸化塩素、モノクロラミン等の塩素系化合物の有効性について検討がなされている。
③水道・給湯水からもレジオネラ属菌や原生動物種が検出される。身近な生活環境の中でレジオネラ属菌の脅威は現れていることを認識すべきである。土壌はアメーバの生息環境である。従ってレジオネラ属菌の定着もある。水系環境のようなバイオフィルム形成が考え難い土壌中でレジオネラ属菌が増殖可能なのか、菌の感染性、生存菌量、それらにアメーバがどう影響するのか等、重要な研究が残されている。

これからの宿主アメーバ研究
①アメーバがレジオネラ属菌の汚染をどう規定し、レジオネラ感染リスクにどう影響するのか
②人為的な環境がアメーバの生態にどのような影響を及ぼすのか
③レジオネラ属菌の病原性、細胞内増殖性等、アメーバとの相互関係の分子レベルでの解析。これらはレジオネラ症のリスクマネジメントの科学的根拠を固める上で重要な研究課題である。

レジオネラ症のリスクマネジメント5レジオネラ症のリスクマネジメント

はじめに
10年ぶりにレジオネラ症防止指針の改訂が行われ、「第3版レジオネラ症防止指針」が平成21年3月に発行された。新版レジオネラ症防止指針において初めてレジオネラ感染危険度のスコア化が提案され、3版では感染危険因子のスコア化と対応が示されている。レジオネラ症でいうリスクマネジメントとは感染の未然防止、感染拡大の防止対策と考える。そこで改訂された指針で示される防止対策について紹介する。

平常時のレジオネラ症防止対策
(一次予防)基本的には水利用設備が汚染されないよう適切な対策を講じる。
①建築物所有者・管理者は建築物設計に当り水利用設備毎に防止対策を置く。施工においては維持管理を踏まえ、施工後は設備毎に管理を行い、点検、清掃、水質検査等の実施記録を保存する。
②公衆浴場・旅館等の営業者・管理者は、都道府県等の条例や構造設備基準に適合し、維持管理基準に従い管理する。管理(点検、清掃)しやすい構造設備とし、感染防止に配慮した設備選択が重要である。また従業員教育等、日頃から徹底した衛生管理に努める。特に新装オープン時や設備の変更、更新時は管理方法の適正性を判断する上で水質検査の頻度を上げることを提案する。
③医療施設・社会福祉施設等の管理者は感染リスクの高い人が利用することを十分認識し、設備や施設の維持管理を行う。感染症対策検討の際には設備管理の専門家を参加させることが望ましい。
④保健所等の行政機関は関係施設の所有者や営業者等に対して適性な指示を行う。国の施策を受けて地方自治体でも条例や規則の整備等、レジオネラ症防止対策に取組んでおり、保健所等は国の施策だけでなく、それらの事例も参考に取り組むことが一層の防止対策に繋がる。又、一般家庭においても感染の恐れのある設備や器具の利用について適正な管理を喚起する。

レジオネラ症患者発生時の対応(二次予防、三次予防)
汚染源を迅速に特定し、適切な施策を施す。?医療機関はレジオネラ症患者と診断した場合には感染症法第12条第1項により直ちに患者の氏名、年齢、性別、診断方法等を最寄の保健所に届ける。?保健所は医師からの届出後聞取り調査を行い、その結果を基に感染源を迅速に特定する。感染拡大の恐れが認められた場合には住民に対して必要な情報を公表し、有症時の受診奨励等の迅速対応と共に、汚染源施設への営業自粛、設備消毒等の適切な指導を行う。又、受診地と感染地が異なるレジオネラ症も報告されており、保健所の連携が重要である。

おわりに
レジオネラ症は未然防止が重要であり、感染者が出た場合には早期診断、早期治療、早急な原因究明調査が重要である。本指針を参考に各々がその役割を果たすことが未然防止に、又一般市民への正しい知識の普及啓発がレジオネラ症の防止、感染者数低下に繋がると考える

レジオネラ症のリスクマネジメント6レジオネラ属菌の検査培養法

はじめに
遺伝子検査法は感度が良く短時間で対応できるが、菌の生死に関わらずレジオネラ関連遺伝子を検出するため殺菌できたかどうかの効果判定には不向きである。現状の浴槽水等の水質基準は培養検査で生菌数を確認すると示されており、培養法は不可欠、且つレジオネラ属菌対策において大きな意義を有するといえる。

検査方法
検水は第3版レジオネラ症防止指針の検査法に従い実施するが、レジオネラ属菌における培養検査の精度は一連の操作が反映されるため、各行程での注意点等を示す。
①検水は汚染度の高い箇所を採取箇所に設定することが重要であり、予め施設に関する情報を入手することで確実な試料採取に繋がる。
②濃縮操作において、冷却遠心濃縮の場合、冷却遠心機を用い、分離停止時は沈殿物を巻き上げないよう減速し、上清を取り除く際にも沈殿物に注意する。正確に液量を合わせるため容量の小さい目盛の試験管、遠心管を用いると良い。
③ろ過濃縮では検水に浮遊物が多い場合にはフィルターを適宜交換、或いはろ過量を減少させ、洗い出し液量を変えることで対応する。個人差がなく一定条件で行うにはストマッカーを用いるのも良い。
④前処理での過剰処理はレジオネラ属菌の生育に影響を及ぼすため処理条件を正確に守る。
⑤培地は添加抗生物質の種類や添加量により検体に混在する雑菌の抑制効果が異なるため含有する抗生物質の特性を把握し、それぞれの検体に適した培地を選択する。
⑥接種の際は寒天平板の上を乾燥させておくと吸水が速やかである。
⑦培養の際は乾燥を防ぐために密閉容器などに入れ保湿する。
⑧判定の際、他の微生物のコロニーに隠されて正確なコロニー数を判定できない場合は検査責任者の指示を仰ぐことも大切である。
⑨レジオネラ属菌同定用キットが国内で市販されている。操作性、コスト面を考慮して選ぶとよい。キットや免疫血清を判定に活用することは検査精度アップに有用である。

培養検査の課題
①入浴状況、浴槽の洗浄頻度、消毒薬の使用状況等によりレジオネラ属菌数は常に変わるため定点を決め、定期的な検査で総合的判断することが重要である。少なくとも指針に示された頻度で実施し、残留塩素濃度、一般細菌数、大腸菌群をレジオネラ属菌数の指標として日常管理を行う。
②濃縮や前処理方法により結果に影響を及ぼすことがあるため、酸処理・熱処理の併用で精度を上げることが望ましい。
③温泉水の泉質によって検出状況は異なる。温泉成分はレジオネラの増殖に影響するので検査においては必ず希釈率を変えた複数の試料液での培養が必要である。
④極めて大量の雑菌の存在等によりレジオネラ属菌を定量できなかった例もあった。
⑤各検査機関は検査精度を保障する必要がある。しかし国内における精度管理についてはまだ検討の段階である。英国のHPAが行う精度管理プログラムを利用することができる。また検査機関の制約が無いため、信頼度の高い機関を識別するための基準も必要である。

バイオハザード対策
レジオネラ属菌は病原体のレベル分類によってBSL2に位置づけられる菌である。施設面、教育訓練の両面で安全対策を施し、作業者の安全を確保することが必要である。

おわりに
培養法はレジオネラ属菌の検査にとって基本となるものである。適切な検査をするためには知識と経験が必要である。検査機関は精度の高い検査を行うべきであり、外部制度管理システムの早急な構築が望まれる。また内部精度管理については各機関に委ねられているのが現状であり、本報が検査に係わる方々の一助となれば幸いである。