レジオネラ文献

建築物の衛生と微生物制御 冷却水の微生物対策

 

冷却水は、冷凍機と冷却塔の間を循環しており、冷凍機が冷水を作り出す際に発生する熱を冷却塔で放出する。レジオネラ症は冷却水、給湯水、浴槽水等でレジオネラ属菌が増殖して、レジオネラ属菌を含む微小水滴(エアロゾル)をヒトが吸い込むことで感染、発病する。レジオネラ属菌の抑制対策には、浮遊しているレジオネラ属菌を殺菌するだけでなく、増殖源であるバイオフィルムを無くす必要がある。冷却水で微生物が発生し障害を起こすのは、水温、pH、水中の溶解成分、日射、水の流速等の要因が好適なためである。現行システムを変更せずに、効果的かつ低コストで冷却水の微生物対策を行うには、防菌防黴剤の添加、及び化学洗浄が一般的である。

レジオネラ属菌数の目標は水中浮遊の菌数で示されるが、バイオフィルム中のレジオネラ属菌にも留意する必要がある。バイオフィルムはレジオネラ属菌の供給源であり、水中よりも高率・高濃度で菌が存在することが報告されている。バイオサイドの種類による検出率の違いによって、冷却水処理を行ってもスライムが生成したり、レジオネラ属菌が検出される場合がある。レジオネラ属菌検出率は、無処理が53.1%、グルタルアルデヒドが9.7%、イソチアゾリンが19.2%、カチオン系が、21.9%、塩素系が55.0%である。有機系薬剤は、無処理に比較して検出率を低下させている。一方次亜塩素酸塩等の塩素系は、無処理と同等以上の検出率であり、10,000CFU/100mL以上の抗菌数の比率は13%であり、無処理の2.9%に対して高率となっている。この原因として、塩素系はアメーバを抑制できないこと、アメーバ内で増殖したレジオネラは塩素剤に対する抵抗性を有することなどが挙げられる。

近年では、バイオサイドとしてヒトや環境へ影響がより少ない物質が採用されている。使用にあたっては、無処理効果のモニタリングとそのフィードバックによる適正な種類及び量の管理が重要である。

 

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温浴施設の微生物汚染の現状と対策

1.はじめに
近年では、日帰り入浴施設や旅館、ホテルなどで、多くの人々が温泉水や炭酸湯、泡風呂など様々な形態の温浴施設を利用している。温泉施設では、レジオネラ問題を中心として、微生物汚染の対策を解説する。

2.浴槽水のレジオネラ問題の経緯
2000年に静岡県と茨城県で、2002年に宮城県と鹿児島県で、開業して間もない入浴施設を感染源とするレジオネラ症の集団発生が起きた。温浴施設の微生物汚染、とりわけレジオネラ属菌汚染に対する関心が高まり、実態調査と汚染防止対策がなされてきた。

3.温浴施設の微生物汚染状況
1)レジオネラ属菌
日本全国の温浴施設浴槽水のレジオネラ属菌検出率は2001年は30.9%、2003年にかけて低下し14.0%と約半分になったが、その後は2012年まで大きな変動はなく13.0%程度である。温泉水は浴槽水全体(水道水含む)よりも高い検出率である。温泉水の利用形態の違いでは、掛け流し式は循環式と大差ない検出率、菌数である。掛け流し式温泉浴槽水は、残留塩素濃度管理が適切に行われない場合が多く、レジオネラ属菌の検出率が高い事が示された。
2)アメーバ類
合計237施設の温泉浴槽水試料685検体を調査した結果、何らかのアメーバ陽性検体は315検体(検出率46.0%)であった。

4.温浴施設の衛生管理基準
温浴施設の衛生管理要項は、「公衆浴場における衛生等管理要領等の改正について」に示されている。特に留意するべき事項として「レジオネラ症の発生の事例を踏まえて、浴場施設の衛生管理、構造設備上の措置を行う必要がある」としている。床や壁、排水口等に汚れや、真菌類等微生物の付着が無いよう、清掃消毒により清潔で衛生的に保つことが求められている。

5.温浴施設の微生物汚染対策
浴槽水のレジオネラ属菌防止対策は、設備構造面と維持管理面から考える。
温泉水で、アンモニウムイオン含有、遊離塩素の消費が速く消費量が大きい、pHが高い等の水質では、遊離塩素管理による対策が困難である。こうした温泉水使用の場合は、浴槽水中にモノクロラミンを3mg/L程度維持することで、レジオネラ属菌抑制対策が改善される。浴槽水から高菌数のレジオネラ属菌が検出される割合は小さいが、100CFU/100ml未満の菌数が検出される浴槽水は10.5%と少なくない。残留塩素が維持されていても検出される場合があり、バイオフィルムの存在が原因と考えられる。対策は、化学洗浄によりバイオフィルムを除去することであるが、設備構造を十分に理解したうえで洗浄残しを無くす必要がある。

6.レジオネラ属菌検査
浴槽水のレジオネラ属菌検査は、温浴施設の営業自粛にも影響する重要な検査である。検査は培養法と遺伝子法があり、培養法は菌数を定量化でき、定期検査に使用される。検査機関は、外部精度管理などを利用して検査精度の維持向上に努めることが望ましい。イギリスのPHE(Public Health England)で外部精度管理プログラムを運用しており、実用的な検査精度の評価ができる。遺伝子法は、迅速検査の特徴から除菌洗浄後のレジオネラ属菌不検出を早急に判断するのに使用する。遺伝子法では死菌の存在も陽性と判定するため、培養法に比べて陽性率が高い。最近では、EMA-qPCR法の採用により、遺伝子法陽性、培養法陰性の不一致を60%削減し、より正確な判定ができる。レジオネラ属菌対策は、正確、迅速な検査に基ずいて行うことが大切である。

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One Healthレクチャー Enviroment3 レジオネラ属菌における水系汚染とその対策

レジオネラの感染は汚染されたエアロゾルの吸引することによる。主な感染原因として入浴施設の利用が挙げられる。
残念ながら、入浴施設は①温水の常時滞留、②入浴者由来の有機物の蓄積、③複雑な配管系、とレジオネラの増殖にはいわばうってつけ(衛生管理に不向き)の構造となっている。本来有機物汚染を防ぐには換水が基本となるが、系内、特に砂ろ過装置内での細菌類の増殖に伴って浴槽水中の有機物は顕著に減少し、見かけのうえでは清浄度が保たれているかのような状況が生じてしまう。しかしながら、循環式浴槽システムは閉鎖系で、持ち込まれた有機物は微生物に置き換わっただけで系内に蓄積され続け、その結果レジオネラの増殖の場が形成される。我々の生活環境にあってエアロゾルの発生につながる装置は入浴施設のみならず、空調設備(冷却塔)、給湯施設、加湿器や噴霧器、あるいは歯科・医療器具など様々なものは存在している。これらの装置ではバイオフィルム対策を怠ればレジオネラ汚染は免れない。

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レジオネラと宿主真核細胞の相互作用

レジオネラは自然界では自由生活性アメーバを自然宿主とする、ありふれた細胞内寄生性細菌でありながら、一旦人に感染すると肺胞マクロファージに感染・増殖し、最終的に重篤な肺炎を引き起こす。レジオネラの非常に広範囲の真核細胞内で生存・増殖できる能力を担うのは、レジオネラ全タンパク質の約1割を占めるエフェクタータンパク質群およびこれを輸送するIV型分泌系である。本稿では我々の研究を中心に、レジオネラと真核細胞の相互作用の分子基盤について概説する。

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レジオネラ症の国内外の動向

患者発生状況
レジオネラ症は4類感染症(全数把握)であり、診断した場合にはただちに保健所に届ける義務がある。患者の届出数は2004年までは年間150例程度であったが、2005年から増加し新型インフルエンザの大流行があった2009年にいちど減少したものの、その後一貫して増加している。2014年は暫定値ながら1,236例となった。

環境における生息状況
現在、レジオネラ属菌には57種が報告されていてそのうち、人から分離あるいはDNAが検出された菌種、肺炎患者で血清抗体価の上昇をもたらした菌種は30種である。道路の水たまりやシャワー水(浴用施設)の検出率が高く、次いで浴槽水、冷却塔水、修景水となっている。多数の加湿器の調査はまだなされておらず検出率は不明である。

培養法(斜光法)
実体顕微鏡を用いてコロニー観察し、その特徴的なモザイク様コロニーの外観を観察すること、コロニー由来のDNA検査を合わせて実施すること、長波紫外線下の青色自発蛍光観察と組み合わせることによって多様性のあるレジオネラの菌株を、3日目まで培養を短縮し分離できる。

遺伝子迅速検査
平成27年3月末に「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」が厚生労働省健康局生活衛生課長通知として改正され、迅速検査の利用が記載されている。塩素消毒すると菌は増殖できなくなり培養法で不検出となるが、核酸はしばらく残り検出される。レジオネラの核酸が検出されることは、レジオネラの増殖する環境が存在したことを示唆し、洗浄効果の判定(陰性証明)とともに衛生管理に役立てることができる。
伝子増幅による生菌の選択的な検出は、EMA処理により死菌由来のDNAの増幅を抑制することで実現され、培養法との相関という意味では冷却塔水より浴槽水の検査に適している。LC ENA qPCR法は平板培養法と高い相関を示した。EMA qPCR法の平板培養法に対する感度、特異度は、いずれもLA MP法より高かった。LC EMA qPCR法と平板培養法の菌数比較では高い相関を示し全体として平板培養法の菌数を反映していた。

ATP測定を利用した衛生管理
ATPを利用して日常的にバイオフィルムや浴槽水中の菌数を管理すれば、レジオネラ検出率を低くすることが可能である。ATPにより相対発光値を閾値以下に保つことによりレジオネラの汚染リスクを下げる衛生管理方法を例示した。

国内散発事例
日本では7月にレジオネラ症の患者が多く、梅雨時期の温度と湿度が菌の増殖に都合が良いためと考えられている。家庭の24時間風呂で感染した事例、少数の菌でも感染する溺水事例、24時間風呂における水中出産による新生児感染事例、腐葉土からの感染事例、高圧洗浄機を使用して感染した事例、公衆浴場のシャワーからの感染事例、太陽熱温水器を利用した給湯系からの感染事例がある。

国内集団感染事例
日本における2008年以降の集団感染の事例では、1事例あたり2〜9例の確定症例が報告されている。高齢者福祉施設の事例を除き全て入浴設備が感染源となっているのが特徴である。

海外散発事例
日本で報告されていない事例としては、歯の治療に関連して感染した事例、粉ミルクによる新生児の感染事例が報告されている。

海外集団感染事例
海外の大規模な集団感染事例では、入浴設備による感染は少数で、冷却塔を感染源とするものが多い。50名以上の患者の報告された事例は少なくとも34件ある。

外部精度管理
適切に検査されず非検出あるいは検出される菌数が少ない検査機関に検体が集まることがないように、検査機関の外部精度管理が必要である。ヨーロッパなどではHealth Protection Englandにより、米国では米国CDCにより実施されている。

分子疫学
SBTにより、結成分1の国内分離株を遺伝子型でグループ分けすると、浴槽水分離株が多く含まれるB1、B2、B3、冷却塔水分離株が多く含まれるC1、C2、土壌水たまり分離株が多く含まれるS1、S2、S3、感染源不明の臨床分離株が多いUグループの大きく9つに分かれることを見出した。

防止対策
遊離塩素消毒がすべての浴槽の安全を担保するとはいいがたい。研究班では、米国の水道で実用化されているモノクロラミン消毒に着目し、モノクロラミン消毒の入浴施設への応用について検討を行った。改正された「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」で、モノクロラミン消毒が掲載された。

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レジオネラ属菌と給湯設備

厚生省(現厚生労働省)を中心にレジオネラ属菌に関わる調査・研究・検討が進められ、これらの成果は厚生省生活衛生局長通知や告知、建築物衛生法施行令などに反映されてきた。レジオネラ症の防止指針策定に向け、平成4年度に「在郷軍人病予防のためのガイドライン作成調査」を実施し、翌年度に「レジオネラ防止指針(第1版)として発行された。平成11年には給水・給湯設備、冷却塔と冷却水系、加湿器、水景施設、蓄熱槽、循環式浴槽等に着目して第2版「新版レジオネラ症防止指針」が発行され、平成21年に未然防止から早期発見・早期治療、感染拡大防止を目的とした第3版「レジオネラ症防止指針」が発行された。

循環式を採用している給湯設備においては塩素消毒の効果は期待できず、システム内のいずれかの個所で常時温度が55℃未満になる場合には、レジオネラ属菌が発生する可能性が極めて高くなることがうかがい知れる。現在、循環式給湯方式が採用される中央給湯設備、スポーツ施設、浴場施設等での循環式浴槽設備に対するレジオネラ症防止に関わる法的基準および指針等において、設計や維持管理に関わる内容はかなり充実してきている。

労働安全衛生法において給湯ボイラや貯湯槽には、温度上昇に伴う膨張を吸収するための逃がし管または逃し弁の設置が義務付けられており、逃がし管が設けられてきた貯湯槽は多く存在する。1970年代に都内に竣工したAホテルの貯湯賞からの逃がし弁を対象としてレジオネラ属菌の調査を行った。12検体のうち、8検体からレジオネラ属菌が検出された。レジオネラ属菌が発生していた主要因として、逃し管内の水温が低いことが挙げられた。

2000年〜2009年に都内において分離されたLegionella pneumophilaの遺伝子型別について

目的
Legionella pneumophilaは臨床材料からの菌の検出率が低く、型別検査は困難であった。そこで、臨床検体や浴槽水などからの遺伝子の直接検出、及びSBT法による型別試験の構築のため当センター保存菌株についてSBT法を実施し、ST分布について検討を行った。

方法
臨床材料、浴槽水などから分離された85株についてEWGLI法に従って型別を行い、遺伝子型を決定した。

結果
1.臨床分離株及び浴槽水-STに多様性が認められた。
2.冷却塔水及び浴場施設内給湯水-ST1型が多い。多様性に乏しい。
3.臨床分離株と浴槽水由来株でSTが一致するものが認められたが、冷却塔由来株で多く認められたST1は認められなかった。

社会福祉施設の浴場におけるレジオネラ対策の実施調査結果について

目的
社会福祉施設の浴場は公衆浴場法の適用対象外となっている。しかし利用者の大半がレジオネラ症の感染リスクの高い高齢者であり、適切な維持管理が必要なことから大阪府では平成20年3月にレジオネラ症発生防止対策要領を策定、社会福祉施設設置者に対する助言指導の指針を定め、さらに講習会を実施してきた。今般、所管内社会福祉施設の浴場について要領に基づく衛生管理の実施状況を確認するため実態調査を実施した。

方法
循環ろ過設備構造の浴場を有する34施設を対象に立ち入り調査を実施、浴場の構造設備、管理状況、書類保存状況等の確認と改善への助言指導を行った。

結果
及び考察: 1)塩素系薬剤による消毒の実施100%。1日3回以上濃度測定実施38.2%(13施設)、濃度保持施設は17.6%(6施設) 2)レジオネラ属菌が繁殖しやすいろ過器、循環配管の高濃度塩素消毒の定期的実施35.3%(12施設)、内、頻度は年2回以上が最多3)ろ過器の効果的な消毒(ろ過器直前の塩素注入口設置)41.2%(14施設) 4)集毛器の毎日の清掃実施30.3%(10施設) 5)浴槽水の換水頻度週1回52.9%(18施設)、2回41.2%(14施設)、1日1回5.9%(2施設) 6)水質検査(レジオネラ属菌、濁度、有機物質、大腸菌群)年1回以上実施64.7% (22施設)以上の結果を管内公衆浴場の調査結果と比較したところ、換水頻度・水質検査実施状況は社会福祉施設の適合率が高く、高濃度塩素消毒等は公衆浴場の適合率が高い結果となった。施設管理者のレジオネラ症に対する意識は高い反面、衛生管理への理解が十分でない面もあり、今後は公衆浴場に準じた助言指導によりレジオネラ症の発生防止に取り組んでいきたい。

レジオネラ症のリスクマネジメント1レジオネラ属菌の細菌学

はじめに
レジオネラ属菌は2009年までに51菌種が正式に命名されているがこれらは菌種・菌株間に生物学的多様性があることが明らかにされてきた。現在までに22菌種がヒトに病原性を持つことが報告されており、病原性にも多様性が示されているがL.pneumophilaの研究のみが進められてきた。本稿ではレジオネラ属菌の細菌学的性状について菌種・菌株間の共通点と相違点を明らかにしたい。またL.pneumophilaの分子細菌学についても紹介する。

レジオネラ属菌の共通性
①グラム陰性の好気性桿菌で鞭毛を持つ(L.oakridgensis L.londiniensis L.nautarumを除く)
②BCYE寒天培地上で増殖するが通常の血液寒天、Muellar-Hinton培地上では増殖しない。
③増殖にはシステインと鉄を要求する。
④発育至適温度は36℃前後、40〜50℃以上では増殖しないか死滅する。
⑤エネルギー源、炭素源として糖類を利用せず、アミノ酸を利用する。
⑥細胞壁は他のグラム陰性菌と比較して分枝脂肪酸が優位である。
⑦ユビキノンのイソプレン単位数が9〜14と多い。
⑧カタラーゼ陽性
⑨硝酸塩を還元しない。
⑩ベータ・ラクタマーゼを産生する。

L.pneumophilaの細菌学的性状の概略
本菌は湿った土壌や河川などの水中に棲息し、細菌捕食性原虫の中で増殖でき、自然界において原虫が主な増殖の場と考えられる。人工的環境では冷却塔水、給湯設備、浴槽水などに棲息、本菌をヒトが吸入することで肺に吸入された菌はMφ内で増殖する。また株化培養細胞内でも増殖できる。

原虫内でのレジオネラの増殖
本菌は細菌捕食性原虫に捕食された後、その食胞内で増殖し原虫を殺すことができる。L.pneumophilaは10数種の細菌捕食性原虫の中で増殖できること、また菌種により増殖をサポートする原虫の宿主域があることが報告されている。原虫内増殖はレジオネラ属菌の水環境及び土壌中での増殖に主要な役割を担っていると思われる。

株化培養細胞内でのレジオネラの増殖
菌種により増殖に適した細胞が異なるとの報告がある。我々はVero細胞内で増殖しつつあるミクロコロニーの形態が種間で異なった特徴の形態を示すことを観察した。この形態の違いは菌の性質の違いを反映していると思われる。

Mφ内でのレジオネラの増殖
ヒトに病原性が報告されているレジオネラ18菌種についてマウスとモルモットのMφ内の増殖能を調べ、4グループに大別した。
①グループⅠ・・・モルモット、A/Jマウス、C57BL/6マウスのMφ細胞内で増殖(L.micdadeiなど11種)
②グループⅡ・・・モルモットMφ内でのみ増殖(L.anisaなど3種)
③グループⅢ・・・モルモット、A/JマウスMφ内で増殖(L.pneumophila、L.joudanis)
④グループⅣ・・・いずれのMφ内で増殖せず(L.hackeliae、L.cincinatiensis)本実験では一菌種につき一株しか使用しておらず、各菌種の菌株数を増やした検討が必要であるが、菌株に多様性があることは確かである。

L.pneumophilaのMφ内動態の概要
主に補体受容体(CR1、CR3)を介してMφに貪食される。この場合、レスピラトリーバーストによる活性酸素の産生は少ないが、菌体表層に分泌されるCu、Zn-SODとMipタンパクにより酸素依存性殺菌に抵抗する。その後、ファゴソームの酸性化やリソソームとの融合を阻害することで酸素非依存性殺菌に抵抗し細胞内で増殖を開始する。菌を貪食したファゴソームの回りには滑面小胞体由来の小胞が集まり融合し、ファゴソーム膜は小胞体膜に置換わりミトコンドリアも集まる。その後、リボソームが変容したファゴソームに付着し、その内で菌は増殖を開始する。但し、弱毒株の場合はファゴソームとリソソームの融合で菌は殺される。これら細胞内小器官の集合は菌側からの情報が細胞側へ伝達されることで引起こされている。その通路となる分泌機構(Ⅳ型分泌系亜型)Icm/Dotトランスポーターにより細胞側へ30種以上のタンパクが送り込まれ、Mφ機能の混乱(ファゴソームの酸性化阻害、ファゴソームとリソソームの融合阻害など)が起こると考えられる。また、細胞内増殖後期、及び感染細胞を殺して細胞外に出た菌には、増殖中の菌にはない鞭毛が観察され、染色性、呼吸活性、細胞壁の形態構造、運動性、細胞への感染性、酸への感受性でも異なりを見せ、分化する菌であることが分かる。一方細胞内増殖後期のリボソーム付着ファゴソームは酸性化し、リソソームが融合するが、Transmissible formに分化した菌は殺菌に抵抗して増殖することができる。

L.pneumophilaのゲノムの概要
Paris株、Lens株、Philadelphia-1株のゲノム比較による解析によると
①サイズは約3.5Mb(大腸菌K-12株より1Mb小さい)
②ゲノム配列の内、88〜90%が遺伝子をコードしている領域として占めている
③機能不明遺伝子は43%
④特異的遺伝子は全ての遺伝子の10〜14%と、割合が非常に高い。
⑤真核細胞の蛋白質と相同性の高い30の読み枠(ORF)が存在し、32のORFは真核細胞において蛋白質間の相互作用に関与する機能を持っている。これらの真核細胞類似タンパクが細胞内増殖を可能にしていると考えられる。

おわりに
今後、L.pneumophila以外の菌種を使用した研究や、環境水中に存在する、人工培地では発育できないが生きている、といった生理状態の菌株の病原性の研究も必要とされている。また、レジオネラ属菌が生体に侵入後、食細胞外でも増殖できるのかどうか等、未だ不明の重要な問題もあり、今後も地道な努力が必要である。

レジオネラ症のリスクマネジメント3レジオネラ属菌の生息状況

はじめに
今般レジオネラ症防止指針が改訂されたが、基礎的なデータが欠如していることを改めて痛感した。そこで古いデータではあるがレジオネラ属菌の分布等について詳細に示し、またL.micdadeiに関する最新データを示すことにより本菌の生態学的特性を十分理解し、適切な対応の一助としてもらいたい。

土壌におけるレジオネラ属菌の分布状況
①1、362試料中86試料(6.3%)から分離され、日本全国に分布(31都道府県66%)していることが明らかになったが地理的な分布傾向は認められなかった。
②年間を通して土壌中に生息していたが、特に3、9、10、12月の分離率が10%を超え高率だった。秋期(415試料中40)、冬期(277中21)、春期(334中18)、予想に反して夏期(336中7)が最も低かった。
③最高頻度に分離された菌種はL.pneumophila(80.2%)で、血清群1群(32.3%)、3群(17.2%)、5・6群(各7.5%)であった。1群は北海道を除く各地、3群は関東、中部、中国、九州、5と6群は近畿より東の地域で分離された。次に頻度が高かったのはL.sainthelensis(5.2%)で、その他L.anisaなどが僅かに分離された。
③分離された場所は道端(26.7%)、庭(16.3%)、植込み(14%)、畑(11.6%)で、弱酸性から弱アルカリ性の土壌に広く生息していることが分かった。分離菌種と分離月には顕著な傾向はみられなかった。
③深層部土壌では、60試料中6(10.0%)から分離され、表層から20〜30cmの深さの土壌中にも生息していることが確認できた。何れもL.pneumophila血清群1群であった。

温泉水におけるレジオネラ属菌の分布状況
③全国各地の710試料中204試料(28.7%)から分離された。地域による顕著な差は認められなかった。採水場所では内湯より露天の分離率が僅かに低かった。循環式と掛け流しの分離率、検出菌数に有意な差は見られなかった。pH別では弱酸性、中性の環境下で高率に存在していることが明らかになった。菌数は少ないが各地の温泉水に広く生息しているといえる。
③上記204試料から分離された251株のレジオネラ属菌はL.pneumophila(245株、97.6%)が最も多く、血清群では1群(54株21.5%)が最多、次いで5、6、4、3、10群の順に多く群別され、2と14群は該当しなかった。また菌数の多かった10試料の血清群別の特徴的傾向は認められなかった。

L.micdadeiについて
①温泉水55試料からL.micdadeiの分離を試みた。3試料、広島県の温泉プール水と内風呂浴槽水(アルカリ性単純泉、pH9.1)と神奈川県の露天風呂浴槽水(ナトリウムー塩化物強塩泉、ナトリウムイオン10、920?/l、pH7.4)から分離された。
②3試料から各3株、計9株のPFGEパターンを検討した。広島の施設では同一起源のL.micdadeiが施設全体を汚染している可能性が考えられた。一方、神奈川の施設から検出されたL.micdadeiは広島とは起源が異なること、また同一施設内でも起源の異なるL.micdadeiが同時に生息していた。
③アメーバ内増殖性試験の結果、温泉水から分離したL.micdadei27株はアメーバ寒天培地上でも集落を形成し、BCYEα寒天培地上の集落との差は認められず、これらの菌種はいずれもAcanthamoebaの細胞内で増殖したと考えられる。また、モルモット由来単球中におけるL.micdadei K2株は、細胞質内で増殖し、核が圧排されていることが確認された。また塗沫標本内の単球の内、L.micdadeiの増殖により破壊されているものが散見された。いずれも病原性であると考えられた。

おわりに
レジオネラ属菌は土壌や温泉の広い範囲に生息し、環境常在菌であることが確認された。感染源対策が急務とされているが、あらゆる環境中でレジオネラ属菌ゼロを目標にするのではなく、レジオネラ症発生防止を目的に、持続的な衛生管理が得策であろう。