レジオネラ治療薬評価委員会報告-日中レジオネラワークショップの報告-

レジオネラ治療薬評価委員会では、2010年より日中レジオネラワークショップを開催し、情報を交換している。今年度は「4th Workshop for Legionella and other atypical respiratory pathogens」が貴陽で開催された。中国からの報告について要約を示す。「Research Advances on Legionnaires Diseases in China」-Dr.Bijie Hu第2回西安
○市中肺炎におけるレジオネラ抗体価検査陽性率は高齢者約6%、若年者は約3%である。一方、健常人231例、肺炎患者168例に同検査実施の結果、31.6%、35.8%が陽性だった。
○上海8病院の水道水をDNA microarrayにて検査した結果、レジオネラ属が43% (うち、L.pneumophila17.1%)検出された。
○中国でもレジオネラ肺炎は一般的かつ重要な感染症であり、肺炎患者にはレジオネラ検査を積極的に実施すべきである。ワクチンによる予防も重要になってくると考えられる。「中国成人CAP肺炎支原体耐性情況中心調査」-Dr.Cao BIN第4回貴陽
○成人CAP(520例)における大規模研究で、14.4%(75/520)がマイコプラズマ肺炎で、EM耐性率80%、AZM72%であった。Macrolide系(MC)耐性メカニズムは23S rRNAのA2063Gの変異が関与していた。MC耐性は成人72%、小児は92%と高い。
○MC耐性率が高い理由として、①MCが安価②過剰投与③習慣的投与が考えられる。
○MC耐性に関するサーベイランスの実施、抗菌薬使用量に関するデータベースの構築、治療ガイドラインの作成などが必要と考えられる。近隣国中国での感染症発現は、日本にも影響を及ぼす。中国の事情や慣例を知ることは日本での感染対策を講ずる上で有意義である。今後も委員会報告等でフィードバックしていきたい。

空調設備におけるレジオネラ対策

1.空調設備のレジオネラ対策の重要性
レジオネラ症は夏から秋期に報告数が多くなる傾向がみられる。冬期に比べ冷却塔の稼働台数が増加し、冷却水のレジオネラ属菌検出率も高くなることから夏期増加の要因として空調設備の影響も考えられる。海外では冷却塔由来の集団感染事例も多く、その事例に学び、冷却水のレジオネラ対策を一層重視する必要がある。

2.空調設備でのレジオネラ症の感染経路
冷却水中で増殖したレジオネラ属菌は冷却塔の飛散水と共に外気取入口から空気調和機に取り込まれ、ダクトを通じて建物内に供給され、室内にいる人が感染する。冷却塔はビル屋上に多く設置され、冷却水にレジオネラ属菌が存在する場合、ビル付近の道路に菌が浮遊、道を歩く人が感染する。蓄熱槽水では水の入替え、清掃の際には注意が必要である。

3.各種水系のレジオネラ属菌検出実態
①レジオネラ属菌の検査方法特に冷却水では細菌やカビ類が多く存在する。検出不能判定が出た場合は前処理を強化し、CAT-a培地に変更、再検査する。汚染や管理状態把握のため生菌数を正確に検査が必要。
②各種水系のレジオネラ属菌検出実態全国のビルや医療、温浴施設などから採取した試料で、レジオネラ属菌が10CFU/100ml以上検出された割合は冷却水25.9%、浴槽水14.1%、給湯水5.2%、蓄熱槽水31.9%、水景用水10.6%と蓄熱槽水、冷却水の検出率が高かった。また、冷却水の年別検出率では2001年〜2005年にかけて30%程度を推移した後、低下傾向が見られ2010年以降は24%程度となっている。

4.空調設備のレジオネラ対策指針空調設備におけるレジオネラ症感染防止のために行政施策として指針が制定され、清掃・点検消毒の作業がし易いなど、設備構造面、維持管理面での技術的な指導がなされている。

5.冷却水のレジオネラ属菌抑制対策
①冷却水のレジオネラ属菌数目標レジオネラ症防止指針(第3版)ガイドラインを適用する。菌数が目標を超えた場合の是正処置は重要である。レジオネラ属菌は検査をしないと存在が分からないので予防的管理が必要である。
②レジオネラ属菌抑制対策プログラムの運用年間プログラムの運用が有用である。作業項目や実施時期等を明確にし、緊急対応についても具体的な手順等を明確にしておく。
③冷却水の処理方法
空調用冷却水の水処理はレジオネラ属菌抑制対策、スケール付着防止、配管・熱交換器腐食防止、補給水節水等を目的に、具体的には冷却水の濃縮管理と処理剤の添加、除菌洗浄である。
○冷却水の濃縮管理
循環水の蒸発によって次第に濃縮し、補給水中のカルシウムやシリカなどが過度に濃縮するとスケールや腐食を引起こすため冷却水自動ブロー装置が利用され、濃縮過剰による障害の防止、ブロー過多防止による節水運転が行われる。
○冷却水処理剤の添加
一液処理剤はスケール防止、腐食防止とバイオサイドの機能をもつ。薬液注入装置1台、薬剤1種類で処理できる。二液処理剤は防食・防スケール剤とバイオサイドの2剤を別々に添加する。
○除菌洗浄
バイオフィルム付着が軽微な場合は塩素剤や有機系殺菌剤を高濃度添加する。付着量が多い場合は過酸化水素を用いて1〜3%濃度で数時間循環する。
④処理効果不十分の要因実冷却水での有機系殺菌剤は無処理に比べ明らかにレジオネラ属菌検出率を低下させ、効果が認められる。効果不十分の要因としては(A)添加量不十分(B)バイオサイドの有効成分の消費(C)レジオネラ属菌の増殖箇所の存在などが考えられる。
一方、塩素系殺菌剤は無処理と同等以上の検出率である。冷却水中ではレジオネラ属菌はアメーバ内で増殖しており塩素剤に対する抵抗性を有する事などが考えられる。殺菌剤の効果には様々な影響があることから、実冷却水のレジオネラ属菌検査が重要である。
⑤抗レジオネラ用空調水処理剤協議会抗レジオネラ用処理剤の有効性と安全を評価し、自主基準に合致する製品を登録薬剤として公表、配合される殺菌剤の化学物質名も公表。これらの情報を参考に水処理剤を選定、使用する事が望ましい。

6.おわりにレジオネラ属菌抑制対策は適切に計画されたレジオネラ属菌検査で評価し、改善する事により菌が増殖しない処理対策を確立する事が重要である。

レジオネラ菌の小胞体への侵入にはRab6が機能する

レジオネラ菌の細胞内感染においてエフェクターと呼ばれる重要な役割を果たすタンパク質LidAは多くのRabタンパク質と統合することが分かっている。その内、Rab1が感染の初期段階で重要な役割を担うことが明らかになっているが、その他については殆ど明らかになっていない。そこで、LidAを通して感染に関与するRabタンパク質の網羅的解析を行った。現在までに、Rab6が細胞内に侵入したレジオネラ菌を覆う膜構造(LCV)に供給されること、Rab6の発現抑制により小胞体にLCVが到着する時間に遅延が生じ、細胞内増殖を抑制することを見いだした。さらにレジオネラ感染特異的にRab6とSyntaxin18複合体(小胞体に局在するt-SNARE)が結合することを明らかにした。レジオネラ菌がRab6を利用することでLCVを小胞体へと運び、小胞体上のt-SNAREと結合し、LCVと小胞体との膜融合を促進していると考えられる。

Rab4及びRab10のレジオネラ感染における機能解析

レジオネラエフェクターの一つLidAはRabタンパク質と結合することが知られているが質量分析を用いてLidAと結合する候補としてRab4、Rab10を含むいくつかのRabタンパク質を同定した。Rab4、及びRab10とLidAが細胞内において特異的に結合していることを見いだした。又、Rab4及びRab10ともに感染後4時間においてLCV周辺に集積した。この4時間後とはレジオネラ菌が小胞体に侵入を開始する時間であることからRabタンパク質が小胞体上で何らかの機能を有していることを示唆している。さらにRab4、Rab10の機能抑制によりレジオネラ菌の細胞内増殖が抑制されることも明らかにした。現在、これらRabタンパク質と小胞体との関連やRabタンパク質がレジオネラ感染のどの段階に機能しているのかを解析中である。

レジオネラ感染による肺胞上皮細胞の遺伝子発現解析

目的
レジオネラは肺胞上皮細胞に直接感染し細胞障害をもたらすがその機序は充分に解明されていない。本研究ではレジオネラ感染初期の肺胞上皮細胞遺伝子発現の変化について解析を行う。

方法
肺胞上皮細胞培養細胞にレジオネラ病原性株及び非病原性株を感染させた各群3検体を一定時間感染後、細胞RNAを回収し、遺伝子発現の群間比較解析を行った。

結果
38、332遺伝子発現の比較の結果、感染(病原性株)群と非感染群で14、774遺伝子に有意な変動が見られた。病原性株感染群と非病原性株感染群では10、118遺伝子に有意な変動がみられた。前者ではHPSやサイトカインなどの遺伝子発現増強がみられた。

考察
レジオネラ感染に伴い、多様な遺伝子発現変化が観察された。その病態的意義についてさらに検討をすすめる。

温泉水から分離されたLegionella pneumophilaの遺伝子型別と塩素抵抗性

目的
各温泉水から分離されたLegionella pneumophilaの遺伝子型を比較するため、分離株について遺伝子型別を試みた。またこれら分離株の塩素抵抗性を知るため遺伝子型との関連性を検討した。

方法
全国の温泉水から分離されたL. pneumophila、循環式温泉浴槽水由来10・野湯由来10、合計20株を用いてPFGE法にて遺伝子型別を行った。塩素抵抗性試験は上水試験方法に準拠し、99.9%殺菌時のCT値を求めた。

結果
供試株20株は循環式温泉浴槽水由来8株によるクラスターA、野湯由来9株と循環式温泉浴槽由来2株を含むクラスターBに大別された。供試株は由来ごとに異なるクラスターを形成する傾向が見られた。またこれら供試株の99.9%殺菌時のCT値をクラスターAとBを比較すると、Aの平均値は0.49mg・min/l、Bの平均値は0.29 mg・min/lであった。常に遊離塩素と接触していると考えられる循環式温泉浴槽水由来株の方が高かったが、有意差は認められなかった。

レジオネラ肺炎マウスモデルを用いたIL-17のin vitroおよびin vivoでの機能解析

目的
L.pneumophilaによるマウス肺炎モデルを用いて、感染病態に及ぼすIL-17Aの機能についてin vitroおよびin vivoでの検討を行った。

方法
マウス肺炎モデルとしてBALB/cマウス、同IL-17A欠損マウスを用いて、L. pneumophilaを感染させ、生存率を確認した。細菌感染モデルではマウスの大腿骨骨髄細胞からマクロファージを分化・回収し本菌を感染させ、各種サイトカイン量の産生性を測定した。

結果と結論
肺炎モデルでは野生型と比べIL-17A欠損マウスで有意な生存率低下を認めた。細菌感染モデルではIL-17Aを細胞に添加することによりGM-CSFとIL-6の有意な発現量の増加が認められ、CXCL-2の発現増加傾向が観察された。以上のことから、L. pneumophilaマウス肺炎モデルにおいてIL-17Aは好中球の産生・遊走に関与する可能性が示唆された。

Legionella pneumophila臨床分離株の遺伝子解析による分類

方法
Legionella pneumophila臨床分離株263株についてSBT法により遺伝子型別を行った。

結果
型別できなかった10株を除く253株は128種類の遺伝子型に分けられた。感染源は43%が浴槽水、他に空調、加湿器、シャワーなどが推定・確定されているが、50%は不明である。また、血清群1の株を環境分離株の遺伝子型によるグループと対応させた結果、浴槽水分離株が多いグループに属する臨床分離株は浴槽水が感染源のものが多く、土壌分離株が多いグループに属するものは感染源不明のものが多く、土埃などからの感染や土壌が混入した水からの感染が考えられた。この他、グループUと名づけた新しいグループは感染源不明が多くまだ認識されていない感染源があることも示唆された。また、遺伝子型別により集団感染疑い事例を見出すこともできた。

Legionella pneumophila血清群1環境分離株の遺伝子解析による分類

環境分離株は78種類の遺伝子型に分けられた。臨床分離株でも見られた遺伝子型は23種類、内6種類は感染源と確定した環境分離株のみで見られた型だった。環境に生息する一部の菌が感染すると考えられた。
菌株間の遺伝子型による近縁度の解析では10のグループが形成され、どのグループに属するかは菌株の由来と関係があった。浴槽水分離株の大部分はB1、B2、B3の3グループに、土壌分離株の殆どはS1、S2、S3のいずれかに、冷却塔水分離株は殆どがC1、C2の2グループに属した。さらに少数株からなる由来が様々なグループUが形成された。従って感染源不明の臨床分離株がどのグループに属するかを調べることにより、遺伝子型から感染源の種類が推測できる可能性が示唆された。

循環温泉水、冷却塔水および臨床由来の各Legionella pneumophila SG1のサブグループおよび病原性の相違

目的
Legionella pneumophila SG1はモノクロナール抗体反応性により10種のサブグループに分かれる。臨床分離SG1株ではmAb3/1陽性株が多く、環境分離SG1株では少ないとの報告がある。これは、環境中では少数で分布している臨床で有意なSG1株が、他と比べ感染能で何らかの有利因子をもつと考えるのが合理的である。本研究では臨床分離SG1株に特定のサブグループが集中する要因を検討する。

方法
患者由来SG1株50株、環境由来(循環式浴槽水および冷却塔水)SG1株60株を用いてその特徴を比較検討した。

結果と考察
臨床分離SG1株と環境分離SG1株では優位なサブグループが大きく異なること、病原因子の保有率が異なること、更に環境分離株でも温泉由来と冷却塔由来では異なることが示された。これらの相違が臨床分離SG1株に特定のサブグループが集中する要因になっている可能性が示された。今後更に、MLSTタイピング、マクロファージ、アメーバを用いた病原力等を調べ、検討を進める。