Legionella pneumophilaの細胞内増殖制御機構-Lgn1/Naip5/Bircle遺伝子を中心に

■はじめに
レジオネラ症の大部分はL. pneumophilaによる。本菌が病原性を発揮する上で最も重要な性質は生体防御のマクロファージの殺菌に抵抗しその中で増殖し、結果的にその細胞を殺す能力をもっていることである。この制御機構と増殖機構については解明されつつあるが、細菌側の病原性因子については既に多くの総説等があるので、本稿では宿主側の自然抵抗性遺伝子を中心に解説する。

マクロファージによるL. pneumophila増殖制御抵抗性マクロファージでは感染後速やかにカスパーゼ1の活性化とIL1βの分泌、ファゴソームとリソソーム融合が認められると共に、感染細胞の多くが細胞死をする。この事からマクロファージの感染抵抗性を示すには、感染初期にカスパーゼ1の活性化に依存したファゴソームとリソソームの融合、LCVの成熟阻害、及び細胞死が起きることが重要と考えられる。また、感染初期に起こる細胞死はカスパーゼ3が関与しないことからピロトーシス(カスパーゼ1に依存した細胞死)と考えられる。

カスパーゼ1、Ipaf抵抗性マクロファージで見られるL. pneumophila感染初期のカスパーゼ1の活性化には宿主のIpaf及びNaip5とL. pneumophilaのフラジェリン(鞭毛構成成分)が関与していることが明らかになった。またカスパーゼ1の活性化にはIpafが必要で、Ascの役割は補助的であること、カスパーゼ及びIpafはファゴソームとリソソームの融合やLCV成熟阻止にも関与していることが考えられる。

レジオネラ感染に対するマウスの自然抵抗性遺伝子(Lgn1/Naip5/Bircle)
遺伝学的解析により、L. pneumophila感染に対する感受性・抵抗性の形質は一つの遺伝子Lgn1に支配されていることが明らかにされた(但しL. pneumophilaL.jordanisのみ)。このLgn1遺伝子座の領域周辺にはNaip/Bircl遺伝子のパラログ(Naip1~7/Bircla~g)が存在するが、解析によりNaip5がLgn1の実態だと証明された。また抵抗性マウスもその性質がNaip5に支配されていることが明らかにされた。様々な比較から、各系統におけるNaip5遺伝子の配列と発現量、両方がL.pneumophilaの細胞内増殖に影響を与えていると考えられる。

フラジェリンフラジェリン(L. pneumophilaの鞭毛を構成する蛋白質)は475アミノ酸残基からなりflaA遺伝子にコードされる。解析によりL. pneumophila感染で誘導されるピロトーシスはFlaAに依存していること、鞭毛そのものではなくフラジェリンがピロトーシスに関与していることが考えられる。またピロトーシスにはC末端の35アミノ酸部分が必要であり、IpafとNaip5は協調的に、フラジェリンのC末端部分を認識してピロトーシスを誘導すると考えられる。

ヒトNAIP NAIPは神経細胞のアポトーシス抵抗性に寄与していると考えられるが、ヒトNAIPがL. pneumophilaの細胞内増殖を制御しているかどうかはっきりしない。そこで、ヒトNAIPのL. pneumophilaの細胞内増殖における関与についてRAW264細胞を用いて検討した結果、RAW264では内在性Naip5の発現レベルが低いため機能せず、L. pneumophilaの増殖が抑制されないことが示唆されたので同細胞を用いてNAIP遺伝子を一過性に過剰発現させた所、細胞内増殖が抑制された。ヒトNAIPはL. pneumophilaの細胞内増殖を制御していることが示唆された。

ヒト細胞におけるL. pneumophila感染
ヒトマクロファージにおいても菌増殖の場としてLCVが形成されるが、細胞内増殖の後期過程はマウスとは異なり、リソソームとの融合が起こらずLCVを出て、細胞質で増殖する。ヒトは感受性と思われてきたが、細胞内増殖の制御機構をもっていることが分かってきた。ヒト細胞においてもNAIP、IPAF、フラジェリンが関与する増殖抑制機構をもっていること、そしてヒトでもNAIP遺伝子の多型や発現量の差異によるNAIP遺伝子産物の機能の亢進または低下により感受性が規定されている可能性があることを示している。

おわりに
これまでのレジオネラ症集団感染事例において、ヒトの個体差(同環境で発症した人、しない人等々)が報告されている。L. pneumophila感染の感受性に関連する遺伝的な差異の解明はレジオネラ症の予防、治療においても重要であり、今後の解明が待たれる。


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