レジオネラ症のリスクマネジメント4レジオネラ属菌とアメーバ

はじめに
冷却塔水や浴槽水などの水系環境がなぜ容易にレジオネラ症の感染源となるのか。レジオネラ属菌の宿主となるアメーバはその疑問を解くキーワードとなる。今回、アメーバの生物的特長や宿主としての重要な役割、また生活環境における実態について紹介し、アメーバからレジオネラ症を考える機会としたい。

宿主となるアメーバ類
①Vahlkamphia科アメーバが宿主アメーバとして知られている。小型アメーバに属し、主に細菌食である。レジオネラ属菌はエサとして取込まれ、アメーバ内に入り込む。シストを形成するものがいるがシスト化前に栄養体に潜入した菌はシスト化後もその中で生き残る。
②水温はアメーバの生態に重要な環境要因である。冷却塔水、浴槽水はアメーバ、レジオネラ属菌にとって増殖可能な温度環境である。

アメーバは環境におけるレジオネラ属菌の培養装置
①アメーバはレジオネラ属菌をエサとして取込み、取込まれた菌は食胞内で増殖を開始する。多量に菌が増殖したアメーバは死滅し、菌を多量に含んだ液胞が崩壊することで菌は外界に放散、環境中に蓄積する一方、新たな宿主へと感染する。まさにアメーバはレジオネラ属菌の培養装置であり感染の媒体といえよう。
②レジオネラ属菌の細胞内増殖は25℃以上では活発に増殖するが、低温では細胞内増殖能力を失い、ファゴソーム内で消化されてしまう。

アメーバとマクロファージ
①アメーバで増殖、感染力を備えたレジオネラ属菌がヒト体内のマクロファージに取込まれることでヒトのレジオネラ感染が起こる。菌はアメーバ感染、細胞内増殖という能力をマクロファージ内で発揮する。
②マクロファージにおけるレジオネラ属菌は増殖段階では運動性はなく、増殖が最大限まで達する段階になると運動性が表れる。アメーバ内でも増殖の終期に運動性を発現し、感染能力を備えた形質に変わる。菌はアメーバ内、あるいはアメーバから放出された時に活性化し、感染力を保持する。

アメーバでレジオネラ属菌検出
レジオネラ属菌の検出に、アメーバが培養装置になることに着目し検出ツールに利用する試みがされている。L.pneumophila以外の感染が疑われる場合はアメーバ培養法を、また土壌からの菌検出にはアメーバと試料の共培養が有効とされている。

レジオネラ属菌の宿主特異性
①菌種により細胞内増殖性に違いが見られる。菌自体の特質に加え、どの菌種がどのアメーバを好むかという宿主特異性による可能性が出てきた。これはアメーバの生態がレジオネラ属菌の分布を規定している可能性を示すことでもある。
②レジオネラ属菌にはアメーバ内でのみ維持可能な菌種LLAPが存在する。現在検出は容易ではないが、公衆衛生上、健康上の問題となるかどうか注意する必要がある。

アメーバ内増殖で菌の性質が変わる
①レジオネラ属菌はアメーバ内で増殖することで感染性を向上させる。
②抗レジオネラ剤はアメーバには無効であり、アメーバ内のレジオネラ属菌は薬剤から保護され、さらに感染アメーバがシスト化する場合は、増殖はやめるが活性を維持し、シストに守られ強い抵抗力を示す。
③アメーバ内増殖はレジオネラ属菌の生理・生化学的性質の変換要因となり、感染性維持、薬剤耐性の面でレジオネラ症の問題を難しくしている。

アメーバがレジオネラ属菌を伝播する
アメーバのベクターとしての関与は実証されていないが、活性高い菌が一度に多数運ばれるとすれば、感染アメーバが少数でも感染効率は極めて高くなる。エアロゾルに加え、感染経路の可能性も否定できない。

レジオネラ感染のDose paradoxとアメーバ
感染と濃度の関係解明はレジオネラ症の実態理解、予防対策の上でも重要である。宿主アメーバのベクターとしての多様な機能はこの問題解決のキーワードとなる。

レジオネラ属菌の宿主アメーバ汚染の実態
アメーバ対策=バイオフィルム対策=レジオネラ対策
①冷却塔の汚染対策は薬剤処理に絞られるが抗レジオネラ剤はアメーバコントロールには効果なく、アメーバ内に潜伏する菌にも無効である。抗アメーバ剤の開発を含めた対策が求められる。
②温泉の源泉からはアメーバが不検出だったことから湧出後、浴槽にお湯を溜めることにより汚染が起こると想定される。循環式浴槽ではろ過装置がバイオフィルムの集合体となり、菌の供給源となっている。塩素ではアメーバコントロールは難しく、近年、二酸化塩素、モノクロラミン等の塩素系化合物の有効性について検討がなされている。
③水道・給湯水からもレジオネラ属菌や原生動物種が検出される。身近な生活環境の中でレジオネラ属菌の脅威は現れていることを認識すべきである。土壌はアメーバの生息環境である。従ってレジオネラ属菌の定着もある。水系環境のようなバイオフィルム形成が考え難い土壌中でレジオネラ属菌が増殖可能なのか、菌の感染性、生存菌量、それらにアメーバがどう影響するのか等、重要な研究が残されている。

これからの宿主アメーバ研究
①アメーバがレジオネラ属菌の汚染をどう規定し、レジオネラ感染リスクにどう影響するのか
②人為的な環境がアメーバの生態にどのような影響を及ぼすのか
③レジオネラ属菌の病原性、細胞内増殖性等、アメーバとの相互関係の分子レベルでの解析。これらはレジオネラ症のリスクマネジメントの科学的根拠を固める上で重要な研究課題である。


レジオネラ文献, 総論カテゴリーの記事