レジオネラ症のリスクマネジメント1レジオネラ属菌の細菌学

はじめに
レジオネラ属菌は2009年までに51菌種が正式に命名されているがこれらは菌種・菌株間に生物学的多様性があることが明らかにされてきた。現在までに22菌種がヒトに病原性を持つことが報告されており、病原性にも多様性が示されているがL.pneumophilaの研究のみが進められてきた。本稿ではレジオネラ属菌の細菌学的性状について菌種・菌株間の共通点と相違点を明らかにしたい。またL.pneumophilaの分子細菌学についても紹介する。

レジオネラ属菌の共通性
①グラム陰性の好気性桿菌で鞭毛を持つ(L.oakridgensis L.londiniensis L.nautarumを除く)
②BCYE寒天培地上で増殖するが通常の血液寒天、Muellar-Hinton培地上では増殖しない。
③増殖にはシステインと鉄を要求する。
④発育至適温度は36℃前後、40〜50℃以上では増殖しないか死滅する。
⑤エネルギー源、炭素源として糖類を利用せず、アミノ酸を利用する。
⑥細胞壁は他のグラム陰性菌と比較して分枝脂肪酸が優位である。
⑦ユビキノンのイソプレン単位数が9〜14と多い。
⑧カタラーゼ陽性
⑨硝酸塩を還元しない。
⑩ベータ・ラクタマーゼを産生する。

L.pneumophilaの細菌学的性状の概略
本菌は湿った土壌や河川などの水中に棲息し、細菌捕食性原虫の中で増殖でき、自然界において原虫が主な増殖の場と考えられる。人工的環境では冷却塔水、給湯設備、浴槽水などに棲息、本菌をヒトが吸入することで肺に吸入された菌はMφ内で増殖する。また株化培養細胞内でも増殖できる。

原虫内でのレジオネラの増殖
本菌は細菌捕食性原虫に捕食された後、その食胞内で増殖し原虫を殺すことができる。L.pneumophilaは10数種の細菌捕食性原虫の中で増殖できること、また菌種により増殖をサポートする原虫の宿主域があることが報告されている。原虫内増殖はレジオネラ属菌の水環境及び土壌中での増殖に主要な役割を担っていると思われる。

株化培養細胞内でのレジオネラの増殖
菌種により増殖に適した細胞が異なるとの報告がある。我々はVero細胞内で増殖しつつあるミクロコロニーの形態が種間で異なった特徴の形態を示すことを観察した。この形態の違いは菌の性質の違いを反映していると思われる。

Mφ内でのレジオネラの増殖
ヒトに病原性が報告されているレジオネラ18菌種についてマウスとモルモットのMφ内の増殖能を調べ、4グループに大別した。
①グループⅠ・・・モルモット、A/Jマウス、C57BL/6マウスのMφ細胞内で増殖(L.micdadeiなど11種)
②グループⅡ・・・モルモットMφ内でのみ増殖(L.anisaなど3種)
③グループⅢ・・・モルモット、A/JマウスMφ内で増殖(L.pneumophila、L.joudanis)
④グループⅣ・・・いずれのMφ内で増殖せず(L.hackeliae、L.cincinatiensis)本実験では一菌種につき一株しか使用しておらず、各菌種の菌株数を増やした検討が必要であるが、菌株に多様性があることは確かである。

L.pneumophilaのMφ内動態の概要
主に補体受容体(CR1、CR3)を介してMφに貪食される。この場合、レスピラトリーバーストによる活性酸素の産生は少ないが、菌体表層に分泌されるCu、Zn-SODとMipタンパクにより酸素依存性殺菌に抵抗する。その後、ファゴソームの酸性化やリソソームとの融合を阻害することで酸素非依存性殺菌に抵抗し細胞内で増殖を開始する。菌を貪食したファゴソームの回りには滑面小胞体由来の小胞が集まり融合し、ファゴソーム膜は小胞体膜に置換わりミトコンドリアも集まる。その後、リボソームが変容したファゴソームに付着し、その内で菌は増殖を開始する。但し、弱毒株の場合はファゴソームとリソソームの融合で菌は殺される。これら細胞内小器官の集合は菌側からの情報が細胞側へ伝達されることで引起こされている。その通路となる分泌機構(Ⅳ型分泌系亜型)Icm/Dotトランスポーターにより細胞側へ30種以上のタンパクが送り込まれ、Mφ機能の混乱(ファゴソームの酸性化阻害、ファゴソームとリソソームの融合阻害など)が起こると考えられる。また、細胞内増殖後期、及び感染細胞を殺して細胞外に出た菌には、増殖中の菌にはない鞭毛が観察され、染色性、呼吸活性、細胞壁の形態構造、運動性、細胞への感染性、酸への感受性でも異なりを見せ、分化する菌であることが分かる。一方細胞内増殖後期のリボソーム付着ファゴソームは酸性化し、リソソームが融合するが、Transmissible formに分化した菌は殺菌に抵抗して増殖することができる。

L.pneumophilaのゲノムの概要
Paris株、Lens株、Philadelphia-1株のゲノム比較による解析によると
①サイズは約3.5Mb(大腸菌K-12株より1Mb小さい)
②ゲノム配列の内、88〜90%が遺伝子をコードしている領域として占めている
③機能不明遺伝子は43%
④特異的遺伝子は全ての遺伝子の10〜14%と、割合が非常に高い。
⑤真核細胞の蛋白質と相同性の高い30の読み枠(ORF)が存在し、32のORFは真核細胞において蛋白質間の相互作用に関与する機能を持っている。これらの真核細胞類似タンパクが細胞内増殖を可能にしていると考えられる。

おわりに
今後、L.pneumophila以外の菌種を使用した研究や、環境水中に存在する、人工培地では発育できないが生きている、といった生理状態の菌株の病原性の研究も必要とされている。また、レジオネラ属菌が生体に侵入後、食細胞外でも増殖できるのかどうか等、未だ不明の重要な問題もあり、今後も地道な努力が必要である。


レジオネラ文献, 総論カテゴリーの記事