掛け流し式温泉におけるレジオネラ属菌汚染とリスク因子

目的
掛け流し式温泉に関する源泉や貯湯槽など、施設全体の汚染状況を調査した報告はこれまでに見当らない。レジオネラ対策を検討する上で、レジオネラ汚染の有無だけでなく施設構造及び管理法を調査し汚染要因を明らかにすることが重要である。そこで全国13府県の掛け流し式温泉を対象に泉質、構造設備、衛生管理法等の実態調査を行い、レジオネラ汚染のリスク要因を解析した。

方法と結果
2005年6月〜2006年12月にかけて全国13府県の掛け流し式温泉182施設の構造設備、衛生管理状況に関する調査、403件の温泉水の微生物汚染状況について調査した。29.5%(119/403)の試料からレジオネラ属菌を検出(浴槽39.4%、貯湯槽23.8%、湯口22.3%、源泉8.3%)した。陽性試料の平均菌数は66CFU/100ml、菌数の最高値は源泉180、貯湯槽670、湯口4、000、浴槽6、800であった。陽性試料の85.7%からLegionella pneumophilaが分離され、血清群別ではSG1、5、6が22、21.、22%と同程度であった。浴槽と湯口上流とに分けての多重ロジスティック回帰分析の結果、浴槽では、湯口水がレジオネラに汚染されている場合及び浴槽容量が5m3以上でリスクが高く、pH6.0未満で低下した。一方、湯口上流では、pH6.0未満、及び55℃以上で有意にリスクが低下し、貯湯槽の存在でリスクが増加する傾向が見られた。レジオネラ属菌以外では大腸菌40.4%、緑膿菌30.8%、黄色ブドウ球菌30.8%と、何れも浴槽から高頻度に検出された。何れも入浴者数が多いほど、又採取時刻が遅いほど検出率が高かった。

考察
以上の結果から、掛け流し式浴槽においても循環式浴槽と同程度の頻度でレジオネラ属菌が検出されることが明らかになった。循環式と比較すると低濃度ではあるが糖尿病等、基礎疾患を持つ易感染者ではエアロゾルの多い環境で感染が成立するため一層の衛生管理の充実が望まれる。又、汚染場所が明らかになったことも重要である。湯口からの源湯が汚染されていれば浴槽の汚染リスクは7倍に上昇することから浴槽のみならず湯口、上流での定期検査も必要と言える。また重要なリスク因子であるpHについてはpH6.0未満で汚染リスクは低下した。もう一つの因子である温度については、衛生管理要領等に定める60℃以上で貯湯槽を管理している施設は4割に満たなかった。温度管理が困難な場合は塩素消毒が善策として挙げられるが、消毒を実施している施設は少ないため有意な結果は得られなかった。一方、湯口水の汚染が明らかでない場合でも浴槽水からレジオネラ属菌が検出されることは注目される。湯口上流での検出率と比較すると、掛け流し式温泉においては浴槽での汚染が極めて大きい割合と考えられる。多重ロジスティック回帰分析による浴槽のリスク因子評価の結果、浴槽容量が5m3以上でレジオネラ汚染の増加が明らかになったが、これは5m3未満に比べブラシを使用しない洗浄の割合が高いためと考えられる。消毒のみやブラシを使用しない高圧洗浄ではバイオフィルム残存の可能性が示された。又、大腸菌等の病原体の抑制には入浴者への衛生教育を含めた対策を講じる必要性が再確認された。温泉は源泉の組成や施設構造により汚染リスクが異なるため、施設管理者がそれぞれの温泉の特徴や構造を把握した上で、独自の管理基準を設定することが望まれる。


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