衛生のプロいなかった検証・日向レジオネラ菌集団感染【西部】*

2002/08/08朝日新聞 朝刊によると、宮崎県日向市の第三セクター「日向サンパーク温泉」で起きたレジオネラ菌による集団感染は、7日までに感染者と感染の疑いがある人は224人、うち2人死亡と、被害は過去に例のない規模に広がった。お湯を循環させて使う方式の温泉は菌の温床になりやすく、以前から危険が指摘されていたにもかかわらず被害が繰り返された背景を探った。(渡辺松雄、嘉幡久敬)事件が起きた原因の一つと指摘されるのは、施設に衛生管理の専門家がいなかったことだ。7月のオープンまでに、市当局もレジオネラ菌対策をはじめとした衛生面の対応を真剣に話し合った様子は見られない。 サンパーク温泉の職員は27人で、正社員は7人。うち温泉施設での勤務経験があるのは、支配人1人だけ。熊本県内の地方銀行に長く勤め、同県不知火町の三セク温泉に出向していた。 しかし、出向先での仕事は、主に帳簿のつけ方や集客の工夫などで、衛生管理は専門外だった。 6月20、21日の「プレオープン」時の塩素濃度の管理は、業者に一任していたという。 宮崎県内の三セク温泉でも、高岡町の「高岡温泉やすらぎの郷(さと)」は、社員11人のうち支配人と副支配人にホテル勤務の経験があり、別の1人は元配管工事業者だ。毎週1回のろ過装置の洗浄など保健所のマニュアルを守り、記録を残すよう徹底しているという。 一方、日向市は、山本孫春市長ら三役が、オープンまで月に1回、担当課と協議していた。食堂のメニューや開業式典の段取り、自販機に入れるたばこの銘柄まで話題になったが、衛生管理対策が語られることはほとんどなかった。商業観光課の林田俊則課長は「レジオネラ菌の名前は知っていたが、具体的な知識はなかった。茨城県などで集団感染が起きていたことは、今回、初めて知った。温泉経営は初めてだったから」と話した。 ○検査手間取り被害拡大 施設や市の衛生面への認識不足の陰で、県が細菌検査に手間取る間に被害が広がったことも見過ごせない。必要な検査薬が保険適用されておらず、地域の医療機関や自治体が入手しにくい現状が背景にある。 「レジオネラの集団感染の疑いがある」。患者が受診した医療機関から県に一報が入ったのは7月18日。同温泉を利用したことが共通していた。県は翌19日、同温泉に営業自粛を求める一方、県衛生環境研究所で50代の男性患者から菌を見つける検査に入った。 検査には、(1)培養検査(2)血清抗体検査(3)尿中抗原検査――などがあるが、県には最も簡便な「(3)」の検査薬はなかった。 培養検査の結果が判明したのは1週間後の25日。患者のたんと、温泉の湯から菌が検出された。 同温泉が営業を続けていたため、この間に施設を利用した人のうち32人が感染、発症した。 細菌が増えるのを待つ培養検査に比べ、尿中抗原検査は15分〜数時間で結果が出るうえ、菌の見逃しが少ないという。40種類以上あるレジオネラ菌のうち、検出できるのは1種類だが、それが感染者の半分以上を占め、症状が最も重いとされる今回の菌も検出できる。日本では検査薬として認められておらず、保険適用されていないため、検査できるのは琉球大など一部の大学病院などに限られるという。 宮崎県は2人目の患者からは、この検査薬を取り寄せた。温泉地として知られる大分県も、今回の騒動を機に購入を申し込んだ。 99年の法改正で、感染症対策は国から都道府県に移管されている。東邦大医学部の山口恵三教授(微生物学)は「営業停止などの根拠として確定検査は欠かせないだけに、各種検査法の普及が急務だ」と指摘する。 人から人に感染しないレジオネラ菌の場合、医師は検査結果を1週間以内に届ければよく、即時届け出が求められるコレラや赤痢などとは異なる。それでも検査時間が短縮できれば被害の広がりを防げるため、厚生労働省も「検査技術の普及を支援したい」(結核感染症課)と話している。

記事掲載誌   掲載日 2002年8月8日 記事番号 272