*〈ニュース最前線〉「温泉天国」生き残れるかお客増加も知名度イマイチ=山形

2002/11/24の東京読売新聞朝刊によると、全国で唯一全市町村に温泉がわき、温泉天国を自負する山形県は不況にめげずに観光客は増えているようだ。しかし、全国的な知名度は今ひとつ。最近では、レジオネラ菌問題に見られる施設管理の難しさや泉質評価制度の導入など、温泉を取り巻く環境も変化してきている。激動の時代を迎えた温泉業界の現状と課題を探ってみた。 「44市町村に温泉があるからといって、客が来るわけじゃない」「風情豊かな温泉街が少ない」――。9月5日、県が初めて開いた「温泉活用検討委員会」の席上、観光や温泉の専門家から厳しい声が相次いだ。 昨年度の「県観光者数調査」によると、県内の“温泉”を訪れた観光客は約1360万人。不景気の中、前年度を30万人も上回る健闘ぶりだ。しかし、この数字にはカラクリがある。町中の日帰り温泉施設の利用客まで含まれており、その伸びによるところが大きい。 昔ながらの温泉場に関して言えば、銀山(尾花沢市)や姥湯(米沢市)など一部が県外客にもてはやされているものの、全体としては観光客の減少が続いている。 1989年、全国の市町村に配られた「ふるさと創生資金」1億円を元手に県内でも自治体による温泉掘削がブームとなり、93年、舟形町の「舟形若あゆ温泉」の完成で、全市町村に温泉がわき出た形となった。その後も自治体温泉は次々に誕生。新たな掘削による公衆浴場は、平成以降だけでも約40ヶ所に上り、その半数が市町村が建設した日帰り施設だ。 自治体温泉は、清潔で広い浴室に泡風呂や打たせ湯など浴槽のタイプも様々。料金も数百円と安い。同様の施設の増加により、集客競争も激化。年々公営温泉が新設される庄内地方では、「独自の売りなんてないし、新しい施設ほど設備が良く、客も足を運ぶ」といった声が関係者から漏れるようになっている。 そんな中、昔ながらの温泉地が生き残るのはさらに厳しい。湯野浜温泉の旅館経営者は、「年間客は10年前より5万人以上減った。温泉の物珍しさが薄れた今、自助努力にも限界がある。今のままでは官による民業圧迫ですよ」とやるせなさをにじませた。 山形市の温泉療法医・片桐進さんは、他県の温泉関係者から「山形って風呂屋さんだろ――」と指摘されたことがある。自治体によるハコもの行政の結果、県内温泉の多くが、泉質よりも設備重視の単なる“公衆浴場”と化していることへの痛烈な皮肉だ。 健康志向が強まり、施設より泉質や利用法といったソフト面に注目が集まっているのが最近の傾向。少ない温泉の湯をろ過し、レジオネラ菌対策のために塩素を注入して繰り返し使う「循環式」が敬遠される一方、くみ上げた温泉を流しっぱなしにする昔ながらの「掛け流し式」が脚光を浴びつつある。 この傾向を受け、全国約1500の温泉旅館や施設が加盟する日本温泉協会では近く、「新・天然温泉表示看板」を導入する。看板には、源泉のゆう出状況や施設との距離、掛け流しか循環かなど5項目の審査基準が3段階評価で記される。 県内の公営浴場では珍しい掛け流し式の「テルメ柏陵」(大江町)では、1年ほど前から「循環しない天然温泉」をキャッチフレーズにしてきた。林尚夫支配人は、「新制度により、ほかの施設との差別化が図られる」と期待を寄せる。 一方、南陽市の赤湯温泉は来春から「源泉主義」とのキャンペーンを展開する。湯量豊富な同温泉だが、多くの客が入浴するため、循環装置を使う旅館も少なくない。そこで循環式か掛け流し式かを明示した上で、源泉自体の素晴らしさをPRしようというものだ。 もちろん循環式にも資源の有効活用というメリットがある。甘露寺所長は「循環や塩素によって泉質は変化するが、正しく管理していれば悪いものではない」と強調、あまり神経質になることはないようだ。 「これからは療養のための温泉と、大きな浴槽でぜいたくな気分を味わう温泉をうまく使い分ける時代になる」とは片桐さんの言葉。そのためにも泉質などの情報を公開していくことが不可欠となろう。 また、この夏に2人のレジオネラ症患者の原因施設となった村山市の「クアハウス碁点」では、月末の営業再開に向けた改修を行った。費用は計6700万円に上った。この問題の後、各地の公衆浴場には水質を心配する声が多数寄せられたという。その一方で先月、温泉施設関係者を対象に県が行ったレジオネラ菌の講習会には約600人が参加。関心の高まりをうかがわせた。 しかし、この菌には不明な点が多い。厚生労働省の指針では、「浴槽の水100ml当たり、菌が10個未満であること」とされているが、中央温泉研究所(東京都豊島区)の甘露寺泰雄所長は「菌の数と発症率に確たる相関関係があるわけでない」と指摘する。昨年度、県内の施設で菌の検出基準を超えた浴槽は、全体の15%近くに及んだが、碁点では検出されていなかった。 結局、発症には、浴槽のタイプや年齢、健康状態など複合的な要因が考えられ、確実な予防策は浴室を丹念に清掃することぐらいだが、たとえ県の立ち入り検査で管理の不備が見つかっても、「営業停止など強い指導権限がなく、自主的改善を期待するほかない」(県保健薬務課)のが現状だ。 この点、長野県は今秋から、水質検査で基準を上回る菌が検出された施設を公表し、営業自粛を求める政策に転換。利用者の立場に立った姿勢は本県も見習うべきだろう。

記事掲載誌   掲載日 2002年12月24日 記事番号 203